許されざる者 [Blu-ray]
当映画もついに Blu-ray 化されて新作として登場しました。
初上映されてからかなりの年月が経ちました。何度も観ました。
製作・監督・主演のすべてを勤めたイーストウッド。彼が本当に描きたかったのは、果たして暴力の連鎖でしょうか。悪と正義でしょうか。
私は、西部劇という舞台を借りて、人間そのものの心理について、訴えたかったのではないかと思うのです。
愛妻を亡くしたマーニーは、二人の我が子とともに、慎ましくも平和な生活を送っていました。
ラストまでご覧になれば分かりますが、凄惨な殺しを、初めから目論んで町へ出向いたのか。
むしろ、期せずして降り注いだ宿命に追いやられ、殺人を犯さなければならなかった。
私はこのように理解しました。
マーニーは、かつて極悪非道のガンマンでした。悪の権化のような保安官により、殺人鬼としての本性が蘇ったのか。
ではなくて、人の心理の奥底にある潜在的なもの。それは、課せられた運命の元においては、人は容易に殺人行為を犯すことができる。
これがテーマだと思われてなりません。
一旦、話は映画からそれます。
イラク戦争の従軍兵士から、帰還して、PTSD ( 心的外傷後ストレス障害 ) を発症した者が多くでました。さらに自殺者も数多く。
一体なぜでしょう。元通りの平温な暮らしに戻ったというのに、戦火から脱して生き延びたというのに。彼らを苦しめたのは何だったのか。
自分こそは家族や国家、平和を愛する人間だと、自負していたのにもかかわらず、イラクの戦場では銃で、ためらいもなく人を殺した。
そして帰還兵として祖国に戻るやいなや、自ら犯した罪の意識から逃れられなかった。それが、彼らを苦しめたのです。
マーニーは、誰もが何処かで眠っている心理であり、許されざる者は、自己でもあり他者でもある。これが、私なりの解釈です。
Vシネ血風録
表紙は三池崇史作品「許されざる者」であるが、この本は決してVシネ作品ばかりを取り上げているわけではなく、一般公開された邦画(「はつ恋」、「ユリイカ」、「わたしのグランパ」等、快挙に暇なし)もリストアップされている。そして、単に評論集では終わらない。
なぜ、Vシネマだけを取り上げなかったのか。それはやはり、作者が明確に「映画評論家」だからであろう。文中にもあるが、今時の評論家さんでさえ試写室で、見たいものしか見ようとしない。現状に、作者の不満が伺えるのである。そして闘病・・・。作者自身も過去に胃がんを患っていたのだ。決して、安住した立場から映画を見下ろしているわけではない、そんな場合ではないぞと。そして、既存のVシネマ関係者もまた、作者同様に決して五体満足な状況で映画作りに勤しんでいるわけではない。作者の映画愛が伝わってくる文章は、読み応えがある。
だからといって、決して暗い内容で終わってはいない。読了後、不思議な、突き抜けたような明るさがある。そのへんは、ヤクザやエロの多いVシネマでも同じことだ。
長いことVシネマから遠ざかっていた私ですが、久しぶりにVシネマを観はじめました。
Vシネマは、映画は奥の深い人間世界。一読の価値ありです。
許されざる者 上
大河ドラマを見終わったような充足感が得られる。著者の力作!で、並々ならぬ思いが伝わってくる。その上、細かいところまで大量に多彩なものを取り込んでいて、これが絵本ならば、さしずめ安野光雅の『旅の絵本』のように、よく見ると、こんなところにこんな人や物が描かれている、といった感じだった。あくまでフィクションだとは思うが、ジャック・ロンドンが日本とこんなに関わったことが不思議だった。また夏目漱石、森鴎外、田山花袋、頭山満、幸徳秋水なども登場する。それに正露丸も征露丸と書かれ、そういえば日露戦争下で、そういう名前で売り出したんだっけなあ〜といったトリビアも織り交ぜられている。
舞台は著者の出身である和歌山。森宮(しんぐう)と読ませている架空の土地は、恐らく、新宮がモデルなのだろう。主人公は「毒取ル」とあだ名された医師の槇。アメリカでドクトルの学位を得て、カナダで1年経験を積んだのち帰国。その後インドで修業を積んだのち帰国。そこからがいよいよ物語の幕開けとなる。日露戦争前からその後の森宮を中心にストーリーが進んでいく。
タイトルの許されざる者とは、とある恋に落ちた者をさすのだろうけれど、当事者だと2人なので、単数形なのは日本語的意味でなのか、そのうちの片方だけ、本当に1人だけなのか、こういうとき、英語は便利といえば便利だ。
槇には、非常に美しい千春、肺病を患っている建築設計士の勉という親戚がいる。槇がインドに行っている間、千春は何者かに毒殺されかける。その後、槇が帰国してから犯人らしき者が判明し、その後も千春を巡っては、さまざまな男性が思いを寄せ、また身近にいとこだと言う者が現れ、またそこから騒動がわき起こる。
しかし本当の騒動は着々と進められていた。各国のグレート・ゲームや時代の流れで、日本もその時流に乗ろうとしていた。「言葉が、それに対応する現実から遊離し、言葉だけで世界が成り立っているかのように錯覚して、それで人を動かそうとする。アジテーションと狂信的世界のはじまりだった」。そして熊野革命5人団も結成される。
日露戦争が起きると、登場人物それぞれの運命が大きく動き出す。もしあの時、少しでも違っていたら、とも考えられるが、本書では、なるようになるという結果につながっていく。多少、あまりにも多くのことを盛り込みすぎた感があり、散漫な感じがするものの、下巻の後半から、なるようになっていく運命が中心に描かれていくことで、まとまりが出る。(これも予想に違わないため、物足りなく思う人もいるかもしれないが)ただ、和歌山は『紀ノ川』のイメージが強く、『紀ノ川』を読んだ時の感動が大きかったので、これを乗り越えるのは自分の中ではなかなか難しいかもしれない。
許されざる者 [DVD]
正義の味方ではなく、悪のヒーローもでもなく、自分が犯してきた過去の過ちに苦しんでもがいている男の話です。過去に戻りたくないと願いながらも生活のために人を殺す。たとえ賞金首の悪人であっても人を殺すことに正当性はないってことを考えさせられる映画でした。
派手な打ち合いではなく、恐ろしく静かに、冷静に、冷酷に引き金を引いていくマニーに圧倒されました。ラストの部分は何度見たことか。すごいな〜イーストウッド。尊敬しています。