日中国交正常化 - 田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦 (中公新書)
この種のものとしては大変読みやすい。
ちょうど関係者へのインタビューを含んだテレビのルポルタージュ番組を書籍化したもののように感じた。
日中国交正常化という70年代初頭の一大外交テーマを田中総理、大平外務大臣、何人かの外務官僚を軸にたどっていくが、少なくとも日本側の状況は史料のみならず関係者へのインタビューによって裏づけされておりよどみがない。
基本的な状況認識も極めて肯定的な叙述であり、決して単なる事実羅列型あるいは逆に問題点のみ指摘なり批判先行でない点が良い。
その前の大きな外交課題であった沖縄返還に比べると、台湾の扱いの問題はあったものの、中国側の外交正常化推進の基本モードがあったこと、ニクソン訪中による露払い、田中政権初期であったこと、世論の支持等恵まれていた面があることがよくわかる。
ただしこのような客観情勢のみならず、交渉の当事者である田中総理と大平外務大臣の指導力、そしてなによりも中国側の周恩来の存在が大きかった(田中総理は“周恩来は世界一の政治家だよ”とコメント)という印象を受けた。
日本いまだ近代国家に非ずー国民のための法と政治と民主主義ー
考えなければ、
額に汗して働くように、脳に汗して考えなければならない。
自身が直面する周りの一つひとつの判断から考え、
反省と検証しなければならない。
本書の原題は『田中角栄の遺言』だそうだ。
元首相、関係者の死によって、
事件が何か遠くに去ったように“過去”として捉えていたが、
この復刊により、どっこい生きていて、
今日の政治的混乱を理解し学ぶべき論点・視点を提供している。
自身の因って立つ基盤を理解しつつも変化に対応すべく、
「方針をキチンと示す」(P226)
要は、自身が変わるのである。
熱情―田中角栄をとりこにした芸者
田中角栄と特別な関係のあった人でなければ語れない、具体的な描写によりその人物像が浮き上がってくる。
田中角栄というと、強引、剛腕、金権、天才といった言葉を連想する人が多いだろうが、ここで描かれる角栄は繊細――あるいは「弱い」とさえいえる一面を持っている。それが一番端的に表れている部分は筆者が角栄と正式の夫婦でないことを次男・祐に告げてショックを受けてしまったときの記述によく表れている。(以下引用)
「祐はお父さんっ子だから、ここは父親からも話してもらったほうがいいんじゃないのかね」
お母さん(筆者の義母で置屋の女将・辻むら)に言われて、おとうさん(角栄)に相談したところ、意外にもおろおろしだして、まるで話になりません。
「おまえ、言ってくれよ」
普段はあんなに自信満々な人なのに、とたんにいくじがなくなってしまいました。
「困ったから、おとうさんに相談しているんじゃありませんか」
「話したことは間違いはない。それはよかったと思う。だが、ここはひとつ、おまえからうまくとりなしてみてくれないか」(以上引用)
これが本当にあの角栄だろうか?こうした人間としての意外な側面が多く見られる。
田中角栄もやはり人の子だったのだなと、ほっとしたりする。
田中角栄 封じられた資源戦略
角栄自身が「わたしが総理のときには、資源外交に最大の力を入れたよ」と述懐したように、田中角栄はエネルギー資源の獲得に向けて奔走した政治家である。本書は、角栄が資源を目指した深い動機が何だったのかを、アメリカ、そして経済復興で力をつけた欧州諸国との勢力争いの中に角栄の行動を置いて、考察している。その考察の基となっているのは、膨大な調査である。調査に関しては「田中の外遊の同行者を訪ね歩き、多様な資料を集め、インドネシアに渡ってインタビューを重ねた。」と(謙虚に)書かれるにとどまっているが、本書を読み終わった今、本当に膨大な調査の上に本書が成り立っていることに気付かされた。労を惜しまず、真実を追求する著者の姿勢には大変感銘を受けた。
今、東北大地震に端を発した原発問題によって、日本のエネルギー政策は混迷を極めている。現在の政界において、リーダー不在が叫ばれているが、このような危機にこそ求められるリーダー像が、本書に描かれている。日本の将来を危惧する者にとって、本書は必読の書である。
年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)
著者の鈴木氏「はじめに」で、いきなり喧嘩を売ってます。既存の年金入門書は、厚労省OBが書いた大本営発表か、年金マニアが書いたトリビア本だと。
とっくの昔に破綻している年金制度は、綻びを覆ううちに複雑怪奇になり、それが国民にバレヌように専門用語で武装した制度なので分かり難いが、この制度はオカシイという前提に立てば理解への道が開けるようだ。
実は初期の日本の年金制度は積み立て方式、つまり「自分の世代の収めたお金を運用し老後に戻ってくる」というまともな制度だったそうだ。それが歴代自民党政権の高齢者への人気取り政策、とくに'70年代の田中角栄氏の総理大臣時代の大盤振る舞いにより、積み立てられた年金はみるみる取り崩され現代に至ったという。本来なら670兆円あったはずの厚生年金の積立金が現在わずか130兆円しかない!5億は目をつぶるから500兆円かえせ!!!
皆さんの一番気になる年金の損得については、1960年生まれ辺りを境にそれ以降は損だそうだ。しかもその損得の差は強烈にデカイ。
少し前に話題になった基礎年金の消費税化による税率17%という驚愕の数字は、今より年金がずっともらえる条件で計算したデマカシみたいである。消費税を財源にした場合の、「数年毎に内閣ひっくり返るような税率の議論するんかい?」という疑問については、目的税化による消費税=関数(基礎年金)的な処理で回避可能ということで、ここが一番なるほど!と納得しましたね。
民主党案についても現方式からの移行期間が長すぎるということで斬って捨ててます。
鈴木氏は現行の賦課方式から積み立て方式への移行を提案しております。ここで、問題になるのは、既に引退している人に払う毎年20兆円ですが、これは時間をかけて相続税や固定資産税で老人の資産を回収するということです。
今手を打てばまだ傷は致命傷ではない、とにかく年金制度改革は時間との勝負という印象です。