いとしこいし 漫才の世界
本書の白眉は、「いとし・こいし名作選」に尽きるであろう。「交通巡査」「物売り・季節感」「ジンギスカン料理」のいとこい舞台・TVをリアルタイムで見てその都度笑ったが、今回読んでもやっぱり笑いを誘う臨場感があった。おふたりのほのぼのとした人生が背後から優しく包んでいるようだ。いずれビデオやDVDでも楽しめるのであろうが、夫々の演目を、活字のもつ均一な表面からどう起伏をつけて楽しむかは、全く読者の自由に委ねられる。これ又、読書の醍醐味ではあるまいか。
尚、名作「ジンギスカン料理」の作者が西村博氏なることを本書で知ったが、現在消息不明という。一人の秋田実氏の後ろには何人もの西村氏がいたことは忘れてはなるまい。
多くの人々に愛され敬慕されたいとし師匠へ、謹んで哀悼の意を捧げたい。
謹んで夢路いとしさんのご冥福を祈りたい。
夢路いとし喜味こいし 漫才傑作選 ゆめ、よろこび しゃべくり歳時記 [DVD]
テレビで昔の漫才の特集番組を見て、夢路いとし喜味こいしの漫才がもっと見たくなり、少し高いかなとは思いましたが、思いきって買いました。内容は昭和50年代から晩年の平成13年ぐらいまでの23篇でしたが、届いた日に一晩で一気に見終わりました。確かに傑作ぞろいで、特に晩年の夢路いとしはぼけ方に凄みがかかっていてまさに老人力かなと思いました。
ただ、5巻目に二人のインタビューを入れるよりは彼らの漫才をもっと見たかったです。また、同じネタでも自分の記憶ではもっと傑作だと思ったのが、収録されてなかったのは残念でした。例えば仲人さんのネタで「結納の品をお床にどうぞ」「え?」「お床にどうぞ」「え?もう寝るんかいな」「寝るんと違う。床さん」「そんなとこ寝にくいがな」というやり取りはもっと晩年のステージで面白いのがありました。
澤田隆治が選んだ 爆笑!漫才傑作集(5)
このシリーズの中で、珍しい漫才さんが登場しているのがこのCD。相方の玉枝の顔の長いのを売り物にして、ネタのそこかしこに「うま」が出てくる「玉枝・成三郎」のコンビの漫才は、このCDでしか聞くことが出来ない貴重なもの。≪万歳の神様≫とされ業界では「師匠」と呼ばれるのが普通のところ、「砂川捨丸・中村春代」の捨丸だけは、「先生」と呼ばれていた。80歳を過ぎても舞台に上がっていた捨丸の面白さは、聴かないとわからないであろう。はじめて「お笑い金色夜叉」を聞いた時の事は忘れられない。高齢で飄々とした捨丸の顔が全く笑わずに演じる漫才は、その客席とは正反対。客席は爆笑である。「三遊亭小円・木村栄子」、「ミスワカサ・島ひろし」は、大阪漫才の代表的存在。栄子の口の悪さは、有名。ミス・ワカサの早口は、立て板に水どころか立て板に水ならば滲みこむ間があるが、立て板に玉である。どちらも女性が男性をやり込めてしまう漫才。「夢路いとし・喜味こいし」には、説明も不要であろう。
お笑いネットワーク発 漫才の殿堂 [DVD]
昭和52年から平成5年までにテレビ『お笑いネットワーク』で放送されたネタが集められたDVD。ネタは6つで、全編60分。
いとこいさんお二人の正統派しゃべくり漫才は、今では聞いていて安心感すら覚えるものになった節がある。このDVDを見るにつけても、ここ最近のコント的なやりとりの増えた漫才とは違った「しゃべり」で笑わせてもらった。それもテレビで放送されたネタを集めているだけに、代表作以外の隠れた作品を楽しむことができた。
でもやっぱり、いわゆる名作はもっと見たかったかなぁ。「我が家の湾岸戦争」「ジンギスカン料理」は収録されていますが、「交通巡査」、「ファーストフード」とか背広をハサミで切るネタとか、乙女の姿しばしとどめん、で終わるネタとかはありません。
浮世はいとし人情こいし
いとしこいしの漫才は、やすきよのそれを凌いでいるのは、周知の通りだが、兄弟で絶妙の間。ボケ、ツッコミは勿論、現代日本が誇る最高の漫才コンビである。この本では、彼らの生い立ちからデビュー、伝説の漫才作家である秋田実との出逢いが彼らの漫才を完成していくさまを見事にふたりの絶妙な会話でおもしろ可笑しく書きつづっているのが最高だ。是非ともお笑いに興味のある人は、勿論のことそうでない人にもお勧めしたい一冊である。もうこのような漫才コンビは、出てこないのではないかと思うのは、私だけだろうか。なぜなら、私は今のお笑いは反吐が出るほどつまらないからだ。