アトランティスのこころ (下)
米のキング・オブ・ホラーことスティーヴン・キングの
「ホラーでない」作品です。
主人公:ボビー・ガーフィールドの物語を中心として
1960年から1999年までの同一の時間軸の中を生きた
人々の群像劇を描いた本作には、
過ぎ去っていったかけがえのない少年時代の記憶や、
激動のベトナム戦争時代の渦中に居た大学生たちの狂騒にも似た、だけど確かな青春、
そしてベトナム戦争というものを経て彼らが何を失っていったのかが
描かれています。
本作はラストが秀逸です。
この物語は憧憬や無常感といったものを根底に湛えて展開されてゆきますが、
その中で描かれてきたものは最終章において結ばれ、
そして「魔法」による一つの救済がもたらされるのです。
かつて名作『スタンド・バイ・ミー』では
切なく哀しく、そして残酷とも言える少年時代との決別を描いたキングですが、
本作のラストでは切なさと共に、奇跡と、それがもたらす希望をも描いています。
その余韻のすばらしさは、数多くのキング作品の中でも有数のものではないでしょうか。
還らない過去とそこに居た全ての人々を想う、切ない物語。
最近のキング作品はちょっと…、と敬遠されてる方も是非手にとっていただきたいです。
アトランティスのこころ〈上〉 (新潮文庫)
家族ではない、うんと年長の友人をもつということは、男の子にとっても女の子にとっても、かけがえの無い幸運だ。世の不思議に対して明解な答えはなくても、少年が「自分と世界」について考えるきっかけになる。こういうのを、(中学生なら十分理解可能)夏休みの課題図書にするくらいの気のきいた世の中になればいいのにね。
アトランティスのこころ ― オリジナル・サウンドトラック
「アトランティスのこころ」の作品中には、これまでにどこかで聞いたことのあるような、60年代のムーディーなサウンドがたくさん使われています。これらのサウンドはとても効果的に登場人物の内面を表す働きを果たしています。
また、映画を見たかどうかにかかわらず、ここに収録されているサウンドは素晴らしいものばかりです。特におすすめは60年代サウンド。このあたりのサウンドが好きな方は必聴です。
アトランティスのこころ〈下〉 (新潮文庫)
素晴らしい本だと思う。アメリカにとってのベトナム戦争とは何だったのか、
それに巻き込まれたある世代の怒り、悲しみ、そして虚無感というものを五つの時代(年代?)を通して描ききっている。キングの凄い所はそれをエッセイに終わらせるのでなく、フィクションを混ぜる事で逆にリアルに自分の"失われた"世代を描いている点にあると思う。70年代がにおって来る様である。
これは今までのキングのフィクションとは違った、"ベトナム文学"と呼べる物ではないだろうか?
ベトナム戦争の傷痕を戦場ではなく人々の日常を通して描いた傑作である。