陰の季節 (文春文庫)
警察小説において警察官を主人公した作品はいくつもあるが、
警察を組織、警察官をそこで働く人、という構図を土台においた視点から捉えた物語はあまりないように思う。
つまり、警察官を労働者とか個人として描いた秀作は何度も読んだが、彼らを警察組織と反射させて、その人間性を描いていく作品は少ないと思うのだ。
大きな会社組織には往々にして、世間とは乖離したその会社内独自のルールというか社会が存在してしまうものだが、
警察組織もまた、そうした会社組織と同じであるということなのだ。
その閉塞感をクールに描き、そこから噴き出る人の温かみが本作の魅力だと思う。
指先の花―映画『世界の中心で、愛をさけぶ』律子の物語 (小学館文庫)
映画を見て後に原作を読んだ後、本著を読みました。
本の帯に書いてあるとおり、映画に対するアンサーブックだと思います。
映画のみキャラクター律子の朔太郎に対する不安感、切ない想いが
丁寧に描かれていたことも良かったのですが、私的には、本著で
亜紀を亡くしてからの朔太郎の喪失感を強く感じられたことが良かったです。
映画での現在の朔太郎、律子をより深く理解したい方にはお勧めだと思います。
佐賀のがばいばあちゃん (徳間文庫)
戦後間もない昭和30年代。この本の作者島田洋七さん(作中・昭広少年)は佐賀に住む祖母の‘ボロ家’に預けられ、どこまでも節約しまくるがばい(すごい)祖母との貧乏生活が始まります。
不謹慎なことに、私はこの本を読みながら思いました。
「あぁ、いいなぁ」
ばあちゃんと昭広少年の生活はまさに貧乏の中の貧乏。川に捨てられた、痛んだ野菜や果物を棒に引っかけて「収穫」しその日その日をつなぐ生活。当時そんなことを言ったらぶん殴られるでしょう。
それでも、私には作者とがばいばあちゃんとの生活が羨ましくて仕方がありません。
モノが溢れかえっている時代、人と人との繋がりが稀薄になった時代だからこそ、がばいばあちゃんの言葉は胸を打ちます。
「拾うものはあっても、捨てるものはないと」
この本が自分自身に問いかけてきます。
身の回りにあるものを大切に使っているでしょうか?
身の回りにいる人達を大切にしているでしょうか?
どこまでが「消耗品」ですか?
がばいばあちゃんは何でも大切にします。物も。人も。
捨てようなんて、思わない。
だからばあちゃんの周りはいつも明るいのです。
大切に。大切に。大切に…
どんなに大切に使っても、物はいつかは汚くなります。
けど使い込んだ分だけ、心は美しくなっていくのかもしれません。
「ああ、貧乏で良かった」とがばいばあちゃんは言います。
私は貧乏に憧れるのではありません。
一つ一つを大切に想うチカラを、この本は教えてくれるのです。