樹液そして果実
文芸評論家であり、ジョイスの翻訳で知られる丸谷才一の評論集。
その対象は、ジョイス、後鳥羽上皇から、大岡正平などの近代文学など多岐に及ぶ。むしろ、著者の特質は、ジョイスの小説がホメロスの引用であるように、イギリス文学、日本の古典、そして近代小説を結びつけるところにあるとも言える。本書は、ジョイスや後鳥羽院などを縦糸とし、様々な時代・場所・分野の芸術を横糸としてきらびやかに織り上げられたもののように感じられる。書評とはかくも面白いものであると知ることができた。本書を読むと、そこに引用されている絵を見たり、本を読んでみたくなる。
レンブラント「フローラに扮したサスキア」
バッハオーフェン「古代墳墓象徴試論」
鈴木 棠三「言葉遊び辞典」
折口信夫「女房文学から隠者文学へ」
五味文彦「武士の時代」
エリオット「荒地」
谷崎潤一郎「蘆刈」
フレーザー「金枝篇」
「正徹物語」「菟波集」
伊藤整「小説の方法」
吉田健一「金沢」
吉行淳之介「砂の上の植物群」
長谷川等伯「柳橋図」
草迷宮 [DVD]
寺山映画を観た晩は必ず寺山ワールドっぽい夢にうなされる。
ずどんと中脳にダイレクトにくる。
綺麗、グロテスク、儚い、生々しい、が混然となって。
初めて寺山映画を見てみたいという人には私は本作をお勧めします。
基調すべて凝縮されているダイジェスト版みたいで合う合わないの判断にいい。
加えてなんといっても短めなので、疲れ果てる又は壊れ果てる前に終わってくれて安全。
夜叉ヶ池 [DVD]
美しく、綺麗な悲恋のものがたりでありながらも、ちょっとしたところにコミカルな演技もあって、鏡花ファンならずとも面白いはず!
千蛇ヶ池の若君を恋慕う夜叉ヶ池の主・白雪姫は、千蛇ヶ池の若君に会いたくとも、昔交わした「村の人間が鐘をつき続ける限り、夜叉ヶ池にいて、村を水没させてはいけない」という人間との約束のため、会いに行くことができず、苦悩する毎日。
村の人間達はその約束を忘れているが、ただ唯一、その龍神との約束を守るべく、“鐘つき”として、百合と共に暮らしている夫・晃。
だが、日照りの続いた村人たちは、雨乞いとして、百合を生け贄にしようとする。その乱闘の中、百合は自害。そして、晃もずっと続けてきた鐘つきをすることなく、百合の後を追う。
その時、雲が出てきて喜ぶ村人たちであったが、単なる恵みの雨ではなかった・・・。龍神との「鐘つき」の約束を破った村は、津波に襲われ、水の底に沈んでしまう…。「鐘つき」の約束を破った人間のおかげで、白雪姫はようやく愛しい千蛇ヶ池の若君に会いに行ける・・・
外科室 デラックス版 [DVD]
泉鏡花の短編「外科室」は短い物語です。この映画も1時間に満たない長さで終わります。しかしこの映画に籠められた美の追求と表現への執着は見る人を捕らえます。原作のある映画の中でも、とびっきりの成功例です。植物園での出会いのシーンは映像による表現を見ることが出来て本当に幸せでした。泉鏡花ファンはもとより、もっと万人に見てほしい作品です。ただし、派手な映画ではありません。激しい感情や固い理屈で理解する映画でもありません。最も評価すべきは、作品の纏う雰囲気・美しい空気なのかも知れません。
主演の加藤雅也・吉永小百合には、抑えた演技に見える激しい感情の表現に圧倒されました。
この映画を見たら必ず原作も読んで欲しいですね。また異なった美しさと感情の迸りを見ることができます。お勧めです。
鮫島有美子「ディスカヴァー2000」(4) からたちの花~日本のうた・第3集
鮫島有美子の「日本の歌」シリーズは回を追う毎に芸術歌曲に向かって行き、ついには後の「日本歌曲撰集」に至ります。
その一歩手前のこのアルバムでは、日本歌曲の中でも特にメロディアスで聞きやすいものが採り上げられています。親しみやすさと芸術性のバランスがよく、日本歌曲入門にももってこいですね。丁寧な歌唱でデンオンの録音も良いのですが、あまりホールの個性が生きていないのが残念です。ピアノは素晴らしいものがあります。