狂気の愛 (光文社古典新訳文庫)
シュールレアリスムの中心的存在、アンドレ・ブルトンの代表作。
20年以上前に読んで、「なんだかよくわからないけど凄い」と思ったことだけは覚えている。
今回、古典新訳で読み返してみて、まずわかりやすさに驚いた。
もちろん、シュールレアリスム文学だから、難解で詩的な表現も多い。
全体のプロットも、つかみ所がないとも言える。
しかし、大胆な訳と、詳細な注釈で、シュールレアリスムの世界観のようなものを
実感させてくれる。
愛のどんな敵も、愛が自らを讃える炉で溶解する
いいなあ……。こういうフレーズを書きたいものだと思う。
まさに「詩」だ。
いずれにしても、ブルトンの作品がこんなふうに手軽に読めるだけで感動である。
良心をもたない人たち―25人に1人という恐怖
かなり前に『平気でうそをつく人たち』という本を読んだことがある。そのときは、こんな
人もいるのだと驚いただけだった。
今回は、隣人のことで悩んでいる友人がいて、その話を別の友人にしたところ、その隣人は
まさにこの「良心をもたない人たち」に違いないと本書を紹介された。紹介してくれた友人
も、身近にこのような人がいて長年苦労をしていたのだ。
切羽詰まっていないと、なかなかすぐに読み通す気にならないかも知れないが、世の中には
こういう人が意外と多いという事実は知っておいて損はないと思う。
本書が示す最善の結論は、こういう人とは、いかなる関わりも絶つというものだ。
親族である場合はそうもいかないが、ついお人好しになったり、八方美人になったりして、
変な他人に巻き込まれてしまう人は、自分の身を守るために読んでおくべきだと思う。
狂気の沙汰も金次第 (新潮文庫)
『夕刊フジ』 で連載された“物書きと山藤章二のコラボ”の筒井康隆版。
山藤章二によれば、各作家との合う合わないがあり、うまくいったときもあれば駄目だったときもあったようだ。
本作はそんな中でかなり二人の息があった好作品なのではないかと思う。
筒井氏の随筆は鮮烈で時に過激であるが面白く、筒井節全開である。
イラストとの相性は、他の作家のときは「なんとなくかみ合ってないな〜」と思うときがあったが、前述のように本作はばっちり。
“描きづらい”という理由でのっぺらぼうな筒井氏のイラストも面白い。
もう35年以上も前のエッセイだが、今読んでもそれほど古さを感じない。
このシリーズの中ではかなり良作の部類に入ると思う。
コンスエラ―7つの愛の狂気
江国香織絶賛の「ティモレオン」の著者からの二冊目。
とは言っても、これはティモレオン以前に書かれたもの。
色恋沙汰にまつわる短編集。原題も意味深だ。
「ティモレオン」の皮肉さを気に入った人なら、
この本も気に入ることだろう。
帯のレビューにあらかじめ表記されていることではあるが、
全ての短編で、男たちが愛ゆえに苦しむ。
それはもう、読んでいられないほどの悲劇。
あるいは皮肉たっぷりのグロテスクな喜劇。
それを七本連続で読むと本当にうんざりするので、
もしかすると一本ずつ読むべきなのかもしれない。
が、次の主人公はどんな落とし穴に嵌るのか、
とワクワクしてくるような人は、
ノンストップで七本制覇するのかもしれない。
「ティモレオン」と同じく、簡潔かつどこか浮遊感のある文章は、
内容と相まって、いかにも「寓話」然としている。
著者は男性。何が彼に、ここまで書かせるのか。