飢餓海峡 (下巻) (新潮文庫)
舞鶴東警察署の味村時雄と、函館の弓坂吉太郎が、
次第に犬飼多吉こと、樽見京一郎を追い詰めていく。
列車やバス、自転車などを用いて、京都から東京、青森、
そして北海道へと、広範囲にわたる捜査が展開される。
現在と違って交通事情の悪い中での、この行動力には感動すら覚えた。
樽見京一郎の不憫な生い立ち、その後、彼が持ち続けていたであろう
劣等感、そしてこの作品全編に漂う貧困の描写には、考えさせられた。
決して短い小説ではないが、面白かったので、割と短期間で
読み終えることが出来た。是非、多くの方に読んで頂きたい作品である。
この壮大な物語を堪能して欲しい。
飢餓海峡 [DVD]
重厚な映画とはこの作品のことをいうのでしょう。しかし、肩も凝らず、
長時間緊迫感を保って決して飽きさせません。後年カラーの松本清張作品や
市川昆の横溝正史作品が流行しますが、その映画としての原点は此処に
あります。永遠に旧さを感じさせない、日本映画の金字塔だと思います。
満洲の光と影 (コレクション 戦争×文学)
戦争は植民地満洲から始まった。傀儡国家として葬り去るのも自由である。ただリアリティーのある文学作品として後世に遺すことは必要なこと思われる。ここに明治生まれの里見惇、徳永直、大正生まれの清岡卓行、宮尾登美子、昭和生まれの三木卓、村上春樹ほか、満洲体験のある著名な作家たちの満洲を描いた短編が収載されていて、読み応えがある。700頁に及ぶ本書は、じっくりと読むに堪える力作集である。(個人的に言えば、私の父は満洲開拓団長として彼の地に客死しているので、本書を哀憐深く読み込んでいる)
ブンナよ、木からおりてこい (新潮文庫)
9月に儚くなられた水上勉氏の作品の中で,私は一番気に入っている。これは児童文学であるけれども,勧善懲悪でなく,きれいごとでない真実を描いているからである。生き物は,他の命を奪ってまでも,食べて行かなければ生きられない。でも自分が死にそうになったら怖くてたまらない。当たり前のことのようだが,児童文学の世界では,へび,おおかみなど,悪役は悪役にされっぱなしだと私は思っている。しかし,この作品の中では主人公のカエルさえ他の命を取って食べている。そしてそれを正々堂々と受け止めている。へびも,ねずみも,すずめも,もずも,鳶さえも,「悪役」ではないのである。劇団青年座による,この作品の舞台も素晴らしい。必見である。