天の鎖〈第3部〉けものみち (中公文庫)
第一部のように主役の少年の成長を追うようなストーリーだが、
奴として育っていく過酷な運命や寺の裏の仕事の様子が暗く、
夜叉神堂という場所や不思議に歳をとらない唯空が、
さらに不気味な雰囲気を醸し出していて、
前の2部以上に悲しみや苦しみに満ちている印象を受けた。
また、すっかり空海は神聖化された存在になっていて、
残した書物まで聖典化されている点が興味深く、
東寺と高野山、他の密教宗派との争いをはじめとして、
奴として「牛」が仕える東寺の僧達の様子や行動などに、
宗教的な部分がより強く感じられる作品になっている気がした。
なお、前の第二部で登場して、不可解だった唯空の正体が判明し、
この3部作における彼の重要性が判り、驚かされるのだが、
さらにもっと深い謎が残ったように感じてしまい、
神秘的というか、煙に撒かれたような読後感を覚えた。
新しき日本語ロックの道と光
見てくれの悪い人がカッコいい時、
見てくれの良い人がカッコいい時を凌ぐ、ような気がします。
予備知識があまりないまま聴きました。
ストレートなロックを予想していたら、意外にソウルフルな歌唱があります。
カーティスをフェイヴァリットに挙げるだけのことはあります。
歌詞の多くに共感できるほど若くはない私ですが、
二曲目、中盤、
「コトバにできないからギターを弾くわけですよ!」
と叫んでギターソロに突入する瞬間、
その瞬間に、アルバム一枚ぶんの代金を払います。
けものみち (下) (新潮文庫)
米倉涼子主演でドラマ化されている作品である。松本清張の悪女系の作品はすっかり米倉涼子が独占している感があるが、この「けものみち」も「黒革の手帖」と同様に、悪女が、自分の周りに群がる男どもを肥やしにしつつ立身出世していく話である。人の欲望が底なしであることをこれでもかというくらいに丹念に描いており、なかなかドロドロとしているため、読後感もハッピーエンドの小説に比べれば当然よくないが、これ以上どんな悪があるのだろうという期待感が高まって引き込まれてしまい、また展開もスピーディーで面白い。たまにはこういう小説を読むのもよい。
ジャニヲタ 女のケモノ道 (双葉文庫)
サラっと読了。この世界には全くもって疎いんですが、著者の「ヲタク」気質・嗜好・行動スタイルの描写がおかしくて何度も吹きだしそうになりました。曰く、オタク同士でしか通じないボキャ、グッズ・雑誌・チケット代を「限界」まで支出(ジャニーズ事務所は江戸幕府・笑)、「卒業」する人・きっかけ・できる人できない人・・・etc。
自分にもヲタク=パラノイアな気質があることは重々承知しているので、分野は違えどウンウンと共感するところが多く。でもやっぱりアレですね、本人は夢中になっているから往々にして気付かない(気付こうとしない)のかもしれませんがやっぱり傍から見ると相当イタイですね(笑)著者は長年のジャニヲタ歴でその「イタさ」をよくわかっているのでそれを逆手にとって笑いに昇華させている。
実は著者も終始一貫筋金入りのジャニヲタだったわけではなく、何度か一時的な卒業を経験し、全身全霊のめりこみ、「担当」タレントを追っかけて移住までする「ピーク」を経験して、現在は「ある程度距離をおいて眺めているだけでいい=達観」の域に至っています。あくまで自分の生活優先で節度をもって楽しむならヲタク大いにいいんじゃないの?こんなに夢中になれるものがあることは幸せ♪・・でもホドホドにね♪
読んで楽しいマニア道。
オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽
そうですか、武満さん逝去から10年ですか。早いもんですね。それを機にして、しばらく入手困難だった映画音楽選集がBOX化。ボーナスCD(貴重なインタビューCD)もついてこの価格です。まず感涙しましょう。毎年、春になると何気に武満が聴きたくなるのは、彼の命日に感傷的になっているわけではなく、芽吹き、花咲く植物たちのような静謐なれど怪しいほどに力強い生命を感じたいからでしょう。彼の映画音楽はもちろん映画ありき、の作品群ではありますが、有体に言えば映画を知らずとも陽気の中で聴く者が思い思いに想いを馳せる楽しみを与えてくれるものです。あなたがもしジョン・ウィリアムズを10回聴くのだとしたら、その1回分の時間を、ぜひこの日本の産み出した典雅なる才能との出会いにしてほしいのです。春、武満。今も耳をそばだてたくなる美しい響きが陽気と妖気をかもしだします。そうですか、もう10年ですか。。。