クレイジー・ダイアモンド/シド・バレット
特にヨーロッパではある意味神格化されているシドだが、この評伝はそうしたベールを取り去り、事実を踏まえて書かれている。
シドのセンスが後々までピンク・フロイドにもたらした影響は、とりわけ映画「ザ・ウォール」の(観客からみて凡庸でない)シーンのすべてがシドのアイデアの流用であること(DVDのコメントでロジャー・ウォーターズ自身も認めている)からも明らかであるが、彼が現役時の「夜明け前の口笛吹き」や当時のライブがオリジナリティにあふれ、シドがジミ・ヘンドリックスやクラプトン(ヤードバーズまでの)と並ぶほどのギター奏法の革新者であったことの経緯については、彼の10代の頃の早熟ぶりの記述から(ミック・ジャガーにもリスペクトされていたらしい)うかがうことが出来る。
その上で、シドがオーバードラッグによってフロイドを辞めさせられ、廃人同様になってしまった経緯について、本書が示唆するものがもっとも印象深い。端的に言えば、それはシドの気の弱さであり、当初からプロの責任感をもってバンドを運営しようとしていた「父権的な」ロジャー(父を幼少時に戦争で亡くして苦労してきた)に対するコンプレックスから来るドラッグ逃避との悪循環である。関西人なら、横山やすしと西川きよしの関係に(むろんシドとロジャーの蜜月関係はずっと短期間であったが)あてはめることが出来るであろう。
Discovery Box Set
始めに私はこのBoxは購入していませんのでBoxに対するレビューではありません。
バラで以下のタイトルを買いました。
1)神秘(1968)
2)ウマグマ(1969)
3)原子心母(1970)
4)おせっかい(1971)
5)狂気(1973)
6)炎〜あなたがここにいてほしい(1975)
7)アニマルズ(1977)
8)ザ・ウォール(1979)
9)ファイナル・カット(1983)
10)モメンタリー・ラプス・オブ・リーズン(1987)
11)対(1994)
今回(2011)のリマスター以前のタイトル(オリジナル)は全て持っていますが
隅から隅までという訳ではありませんが聞き比べた感想を簡単に書きます。
「神秘」から「狂気」(比較したのはSACDではない)までは比較的効果が感じられますが
これは凄い、と言うほどではない。音圧はやや上がっている。
「ウマグマ」の Disc 1(LIVE)、「おせっかい」の「エコーズ」あたりが良いです。
「炎」「アニマルズ」この2作、特に「アニマルズ」に一番効果が感じられました。
「ウォール」はよく聞かないと分からないが分離が良くなったかな、という印象でした。
問題は「モメンタリー〜」と「対」ですが正直リマスター前の方が良く聞こえる
「モメンタリー〜」は低音域と高音域が抑えられているように聞こえます
これはどうなんでしょうか。アナログな音に近付けたのでしょうか?
意図が良くわかりません。
10)11)についてはリマスター以前は国内盤、リマスターはEU盤についての比較です。
ピンク・フロイド アンド シド・バレット ストーリー [DVD]
本作がBBCで制作されたのは2001年なので、その後日談として、シド・バレットが糖尿病からの合併症によって逝去したことをここに追記しなければならないのは残念なことです。
60年代後半に吹き荒れたサイケデリアの嵐の後は、ブライアン・ジョーンズ、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリクス、ジム・モリソンらの、薬物中毒が原因ではないかと憶測される死が相次ぎ、また近年完全復活を果たしたブライアン・ウィルソンのように再起不能を囁かれる場合もありました。しかし、シドの消息についてはほとんど情報が無く、ミステリアスな存在のまま置き去られているように思っていましたので、今こそこのドキュメンタリーは注目されるべきでしょう。
50分という短さのため断片的になっていますが、初期のライト・ショーの様子や、ボトルネックの代わりにライターでギターを弾く姿など、貴重な映像が観られると思います。また、ピンク・フロイドのメンバーはもちろん、ソロ・レコーディングに参加したミュージシャンや元恋人、建築家マイク・レナード、画家ダギー・フィールズ、写真家ミック・ロックなど、往時をよく知る重要人物にはすべてインタビューが取れていると感じます。彼らが口を揃えて語るのは、シドの天才ぶりとその後の奇行。
そして、体重が増え髪を剃り落とし、別人のように変わり果てたというクレイジー・ダイヤモンドの隠遁生活については、この作品の中でも明らかにされることはありません。やはりそれは、伝説に風化するまでそっとしておくべきものでしょう。
本編にも登場するロビン・ヒッチコックと元ブラーのグレアム・コクソンが、シドのソロ・アルバムの曲を弾き語りするのも嬉しい特典映像です。
余談ですが、オリジナル・ラブが06年1月に発表した「キングス・ロード」収録の「シー・エミリー・プレイ」は、奇しくもシド生前最後の公式カバー曲になったかもしれませんね。