源氏物語九つの変奏 (新潮文庫)
9作品のうち、町田康と江國香織の作品が、素晴らしかったです(☆5つ)。
ストーリーは源氏物語に忠実でありながら、
独自の文体・視点によって、
登場人物が、より生き生きとしたものになっており、とても面白かったです。
この2作品を読めただけでも、買ってよかったと思いました。
桐野夏生、小池昌代の作品は、
登場人物の一人が後日、あの出来事を回想する、という形になっており、
現代語訳を読んだだけでは思い至らなかった部分に、思いを巡らせることができました。(☆4つ)
(たとえば私は、現代語訳を読んだ時点では、女三宮のことがあんまり好きではなかったのだけれど、
今回、桐野夏生の物語を読むことで、女三宮に同情的になりました。)
残り5作品のうち
3作品は、通常の現代語訳のように思われ、どこが斬新な解釈なのかよくわからなかったです。
登場人物の相関関係などを知らない場合には、読み終えるのがキツイかもしれません…。(☆2つ)
ほかの2作品は、源氏物語から、ストーリーも設定も全て変えられています。
源氏物語を離れた短編小説を読むつもりであれば、面白かったのかもしれませんが、
あくまでも源氏物語のアンソロジーを読みたかった私には、不満が残りました。(☆1つ)
というわけで、9作品を平均して、☆3つです。
君が壊れてしまう前に (ピュアフル文庫)
島田雅彦の中で一番気に入っているわけだが。
ここには14歳のリアルの一端がある。
恋をして喧嘩をして、自殺して、その時々で僕は悩むし、葛藤もする。だけれど、留まることを知らない青春の波にそれらはあっという間に押し流される。
というか、押し流さざるをえない。そんなことよりももっと楽しいことがあるし、そんなことよりももっと悲しむべきことがあるから。
冷たいかもしれないし、寂しいかもしれない。
だけど、そこに確かに青春はあった。
小説作法ABC (新潮選書)
デビュー以来、第一線で活躍し続ける作家にして、大学教授。
しかも、チャン・ツィイーと二人で雑誌の表紙を飾るほどの、ナイス・ミドルである著者の最新作は
大学の講義をベースに、自身の作家人生の中で習得した「小説作法」を教授する本作。
タイトルのとおり、本書の記述のほとんどが小説の書き方に割かれます。
ですから単純に考えれば、読み手にはあまり関係のない話―
とも思えます。
しかし、たとえば
料理を、直感的な好き嫌いで判断するのではなく、
その善し悪しを吟味しようとするのであれば
料理の作り方や食材についての知識が必要であるのと同じように
小説を深く味わおうとするのであれば
作家がどのような点に留意し、苦悩したのかを知らなくてはいけない。
そうした観点からすると、
本書は作家が最低限留意すべき点―読者が小説を読むときに注意すべき点―
が紹介された、読書作法ABCとも言えます。
個別の記述については、興味深い点が毎ページあり
何度も読み返したくなるのですが、
とりわけ記憶に残ったのは、
筆者の無意識まで読み解くことで、読者と筆者の理想的な関係が築かれる
―という箇所。
そして
(あまり本筋には関係のない)韓流ドラマで記憶喪失が描かれるのは、軍役のメタファーだ
―という指摘。
なるほどなぁと感心しきりです。
小説家を目指す方のみならず
より一歩上級の自覚的な読書をしようとする方に
ぜひとも、ぜひとも読んでいただきたい著作です☆☆
必読書150
人文社会科学、海外文学、日本文学から各50冊を選んで、一人一冊一ページの書評をならべた書評集。本書にのっている本を読んでいない人間はサルだそうです(笑)。こういうのはまじめに読むよりも、ああだこうだとケチをつけながら読むのがいい。
しかし冊数が限られているとはいえ、ディケンズ、オースティン、バルザック、トルストイ、ボルヘスなどの大物がごっそり抜けているのはいかがなものか。モンテーニュと中島敦、幸田露伴も押し込みたい。それでサド、ゴーゴリ、デュラス、ジュネは外す。サルトルはカミュと交換。
ぱっと見、日めくりカレンダーみたいなので、いっそ大幅に冊数を増やして『365日の名著』とでも名前をかえてみたらいかがでしょう。
メトロポリタン・オペラのすべて 名門歌劇場の世界戦略
この本を読んで、オペラという芸術をビジネスとして見る面白さも味わった。と同時に、すごくオペラが見たくなった。
本書はかなり通向き。著者はオペラ歴20年、しかも海外在住のため相当見まくってる様子で、オペラ界全体の流れがよくわかるようになっている。
オペラはこんなにも冒険が進んでいたとは! ぜひ、斬新で素敵な舞台を見てみたいと思った。歌手を聞き比べるのも凄く面白そうだし、歌手によって向き不向きのオペラがあるっていうのも、頭でわかっていても見て聞いてでないとわからないだろう。奧が深そうだ。でも、それだけ斬新にならざるを得なかったことには、新世代のニーズと経済事情とがあったわけだ。(中国の京劇が衰退してしまったのは、この創造性をシャットアウトしたからだし、日本の歌舞伎も勘三郎にだけ頼らず、もっと冒険をしていかないと先が心配だ。)
9章のメトロポリタン・オペラの歴史は、それだけで映画にしてもいいようなほど、エキサイティングだった。アメリカの伝統的名家が牛耳っていた劇場から閉め出された新富豪達が怒って創設したのが始まりというのが、まず面白い。(アメリカそのものが成金だと思うけど。) メト(メトロポリタン・オペラのこと)で亡くなった人達の話もドラマチックだし、オペラを知らない人でも、9章は人間ドラマとしてすごく面白く読める。それに、今のメトが切符の収入よりも寄付で成り立っているというのに驚いた。当然ながら、何百万ドルもの多額の寄付者達が理事としてメトの運命を決める。ま、アメリカは大統領だって消防署だって寄付に依存している国だから、アメリカ人はそんなに驚かないかもしれない。
総裁や歌手、演出家、指揮者だけでなく、裏方で働く人の取材話も興味深いし、目玉が飛び出るギャラ・給与の話も面白い。オーディションの仕組みと競争率にも度肝を抜いたし、オペラという大イベントを毎日こなすロジがいかに凄いものか、よくわかった。オペラを見慣れた人でも見方が変わってくるでしょうね。私はオペラ初心者なので、本書に出てくる「有名」歌手や専門用語がわからなくて残念だったけれど、これから安い席でも、ビデオでも、どんどんオペラを見てみようと思わせてくれる1冊だった。