筒井漫画涜本ふたたび
原作はいがらしみきをさんの「北極王」を除けば20年以上(中には40年以上の作品も)の物ばかりですが、あまり古びていません。
前作および徳間書店の小松左京さん「日本(ふるさと)沈没」漫画アンソロジーにも参加したとり・みきさんが「わが良き狼」のメタフィクショナルな面と郷愁を絶妙に漫画化しています。
他の漫画家陣はあまりにも適役過ぎて逆に心配だったゲイアーチストの巨匠田亀源五郎さんによるゲイの極道漫画「恋とはなんでしょう」が原作の持つグロテスクな滑稽さを薄め抒情的な仕上がりで意外性充分だったのを始め、ストーリーとキャラが伊藤伸平さんの作風にもろハマりの「五郎八航空」、畑中純さんの画風にぴったりの「遠い座敷」、可愛い絵が逆に不気味さを醸し出し、鉄道つながりの楽屋落ちも楽しい菊池直恵さんの「熊の木本線」、一番色っぽい萩原玲二さんの「弁天さま」、赤塚不二夫風のタッチで破壊的なナンセンスさが嬉しい驚きのアニメーション監督・大地丙太郎さんの「発明後のパターン」、怪奇幻想分野の巨匠高橋葉介さん「ラッパを吹く弟」、児童漫画界からはMoo.念平さん「うちゅうをどんどんどこまでも」、少女コミック界の奇才明智抄さん「幸福ですか?」、才人鈴木みそさん「あるいは酒でいっぱいの海」、元立川流の雷門獅篭さん「落語・伝票あらそい」、小説家としても著名な竹本健治さん「スペードの女王」、折原みとさん「サチコちゃん」、ショートコミックス&4コマ漫画界からはみずしな孝之さん「フェミニズム殺人事件」、そして耽美絵師の山本タカトさんが表紙絵を描いています。
今回も前作に劣らずバラエティに富み原作にリスペクトを持ったベテラン作家が多く、安心して読める大人向けの短編集です。
こうして読むと筒井作品は既に古典で有り、贅沢を言えば次回はもっと型破りな作品も読みたいとも思いました。
モノノ怪 壱之巻「座敷童子」 [DVD]
このアニメが成功した理由は、標題のとおりだと思う。
世界観、脚本、ビジュアル、演技などそれぞれの構成要素が
かなり独特でクセが強いが、それらはちゃんと目的に沿って
作られ、きちんと機能しているのだ。
Q:なぜ和風・浮世絵風のビジュアルなのか?
A:いわゆるアニメマニア以外の層にアピールするため。
Q:なぜセリフが簡潔で、それでいて思わせぶりなのか?
A:視聴者に想像する余地を残すため。
Q:なぜ5話オムニバスなのか?
A:途中から視聴しても楽しめるようにするため。
これらのテーゼは前作(「怪」の化猫編)からハッキリして
いる。だから、これまでノイタミナ枠の主流であった少女
マンガ系の番組とは、一見毛色が違うようでいて、「大人の
女性や非オタクにも観てもらえる」という、枠の方向性には
きっちりフィットしているのだろう。
僕は、いわゆる萌えアニメの中にも素晴らしいものは数多く
存在していると思うが、それらはオタク層のニーズに応える
あまり、特殊な方向に進化してしまい、ごく一般的な視聴者
層を置いてけぼりにしている場合も多い。
本作は、そういった「アニメはこうでなくては」というよう
な、制作者、アニメファンの双方にあった思いこみに対して、
警鐘を鳴らす意味でも重要な作品だと思う。
モノノ怪 弐之巻 海坊主 [DVD]
モノノ怪といえば、前作の化猫が評価が高いですが、個人的にはこの海坊主の話のほうが数倍面白いです。
知人から薦められ「本当に面白いのかな?」と疑いながら見始めた私ですが、5分でその世界に引き込まれてしまいました。
まるで浮世絵のような鮮やかで艶やかな画面、それにまったく負けることのないしっかりとした脚本、演技の巧みな役者陣、それらを見事に調和させる演出と音楽、久々に見ごたえのある映像作品を見た気がしました。
キララ、探偵す。 (文春文庫)
……竹本健治も、もう五十歳を越えたんだよなあ。かつて早熟の天才として名を馳せた作者だが、年々その作品のレベルが落ちているのは、もう歳だからか。そんなことを思いつつ、一読。
……違う方向にぶっとんじゃいました。これってエロ小説ですか? いや確かに俺は「ウロボロスの偽書」のエロシ−ンをオカズにしたことがありますよ。けど先生、公衆の面前でアナル責めですかー!?
2ちゃんでは、「出来損ないのライトノベルのよう」と酷評されているが、ミステリとしての謎解きはそんなに悪くはない。ただ、人物描写がなあー。死語ばっかだし。メイドが探偵?と思って何の予備知識も無く本書を手に取った読者(普段多くのラノベを読んでいる人)は不満だらけだろうなーと思う。
竹本ファン以外が読んで素直に楽しめるかは疑問。
モノノ怪 四之巻 「鵺」 [DVD]
凝った趣向と様式美、奥深いシナリオで、毎回とても楽しませてくれるシリーズですが、
本作はまた一段と素敵です。
至宝の香木を伝える家の姫を巡って、さながら竹取物語のように、四人の男が聞香で争う。
そんな人々の心の隙間にモノノ怪が忍び込む事に…。
「香道」の世界…それも、名香中の名香「蘭奢待/らんじゃたい(劇中では「欄奈待/らんなたい」)」を
絡ませるストーリー展開に、まず、とても興味を引かれました。
また、前半は色彩も画面も墨絵のように静かで、雅な世界の向こう側に、
正体のなかなか知れないモノノ怪の存在が感じられ、それが不穏に美しい。
モノノ怪と薬売りが対決する後半は、一転して、抑えられていた色彩が一気に爆発する様に、
すっかり目が奪われてしまいます。
それにしても、本作では「間」が一層絶妙です。
また、シナリオ的に「モノノ怪の鵺」の回に、何故「お香」を持って来るのか?…という所、
大ラスで「なるほど!」と分かるのですが、
(モノノ怪の所行の理由の方では無く、寧ろ)、重奏されるイメージそれ自体が狙いだと思われ、そこが本当に心憎い。
故に心理劇というより、純粋に「不思議な物語」となっていて味わい深い。
お見事!という他ありません。
最後に、
主人公の薬売りの、印象的な口上を書き留めて、このレビューをお終いにします。
あえかに儚くたゆたい消える
言葉では近づけず、けれどそこに在るもの
残るのはせつなさ……今は無い、という記憶