長安牡丹花異聞 (文春文庫)
題名をみておわかりの通り、中国を舞台とした時代小説の短編集です。
文章に冗長なところはないのですが、どことなく気怠るい雰囲気も漂います。
なかなか明かされない謎が絡むからでしょうか?
それとも艶ややかな美女のせいでしょうか?
とは言いつつも、作品ごとに趣向が異なります。
私は表題作に一番惹かれましたが、「殿(しんがり)」という作品の、最後の方にある場面は一幅の絵が想起されて~これもまた楽しめました。
中国の風物が今ひとつな方でも、食わず嫌いせずに挑戦してみてください...これから訪れる秋の夜長に...
十八面の骰子 (光文社文庫)
帯に中国版水戸黄門とありますが、あの偉大なマンネリ感はありません。まぁ、位のある人が身分を隠して2人のお供を連れて諸国の悪人を退治するってあたりまでが共通点で、当然ながら、一話毎に工夫がなされています。薬物や化学反応をネタにした話が多いのは薬学部卒といったところでしょうか。とはいえ別に専門知識も必要ではなく、著者特有のユーモアもあり、とても楽しめました。主人公の3人にはまだ秘密がありそうですが、続編も書かれているとのこと。首を伸ばすほどでもなく、ノンビリと待ちましょうか。
狐弟子
中国の唐時代を背景にした短編小説7編が収められています。
一見突飛な設定のものでも、それが物語の展開の伏線につながる
巧みさと、どことなく流れる中国の土着的なにおいの感で、かえって
登場人物たちにもリアリティを感じたり。
一見愚鈍に見える少年が狐と呼ばれる師匠に弟子入りし、しだいに
その機知を発揮し、大の大人をやり込める痛快でどことなくコミカルな
表題作の「狐弟子」と、盗賊で髪結師の主人公という設定が面白く、
最後には思いもかけない展開で読ませる「雲鬢(うんびん)」が
個人的に面白く、気に入りました。
琥珀枕 (光文社文庫)
昔の中国を舞台にした妖怪ものの短編集。
妖怪もの、と言ってもおどろおどろしい内容ではなく、人間の性(サガ)を様々な角度から捉えて浮き彫りにしたドラマである。
長寿・金銭・権力・愛憎……。
永遠のテーマとも言える人の持つ欲望の数々を、妖怪ネタとうまく絡ませて、どの作も見事に描出していると思う。
稚拙な表現だが、「ひょっとしたら、欲そのもの=妖怪と言えるのかもしれない」と思わせるほどの奥深さがある。
文章もすっきりしていて読みやすく、無駄のない表現が、逆に物語に重々しさを与えているような印象さえある。
個人的にこのような日本語は好きだし、手本にしたいような良質さだ。
久々に、他の作品も読んでみたいと思った作者に出会った。
漆黒泉 (文春文庫)
石油をめぐる戦い。
時代は11世紀の中国、宋。
婚約者を殺害された女性が、婚約者の意志を継ぐべく、
使用人、女優、老学者、兵器技術者と手を組んで、
婚約者の政敵である権力者を誘拐するのだが、
いずれも一癖二癖あるチームで
違いに腹を探り合い、虚々実々の駆け引きを繰り広げる。
誰が味方で、誰が裏切るのか、
誰が騙し、誰が騙されたふりをしているのか
スリリングな展開でワクワクします。
ただ、テレビの時代劇のようで、もう少し時代の香りが欲しいと思いました。