立花宗茂と立花道雪 (人物文庫 た 5-1)
道雪の強い請いで立花家の養子となった高橋家の嫡子宗虎(立花宗茂)が秀吉に取り立てられるまでの壮絶な青年時代を描いた長編。若き日の立花宗茂と、養父であり「鬼道雪」と恐れられた猛将立花道雪、実父であり豊後大友家の勇将高橋紹運の物語。「嗚呼壮絶岩屋城跡」の石碑が残る岩屋城での紹運の奮闘、父子の想いは、思わず涙するところ。ストーリー性や人物像など、この手の人物文庫とは思えぬ質の高さ。傑作。必読の一冊。
切腹 [DVD]
~「切腹」という潔い題名と主演が 仲代達矢に 惹かれて買ったのですが オープニングからエンディングまで
すごい気迫と緊張感で画面に目が釘付け状態。
浪人 半四郎役の仲代達矢の 怒りと復讐に燃える恐ろしい目に圧倒された。
中庭で淡々と語る場面と復讐に燃え すさまじい立ち回りを魅せてくれる半四郎の みごとな静と動の演出。
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現在にも通じる理不尽な政治の犠牲者だと 感じられるものがあり 半四郎の怒りに共感し 無念さに打ちのめされた。
悪役の三國連太郎に 今の政治家を思い浮かべる人も少なくないだろう。~
一命 (講談社文庫)
読み応えのある短編集。
日本映画の傑作「切腹」の原作、「一命」として再映画化される「異聞浪人記」や
同じく映画「上意討ち 拝領妻始末」の原作「拝領妻始末」などを収める。
共通するテーマは、「大きな物語」と個人の物語の葛藤だ。
社会の価値観を支える「大きな物語」の中で押しつぶされていく人々の、
それぞれの物語を丁寧に紡いでいく。
私たちの周りでは「大きな物語」が「正しい」ものとして語られるが、
その陰に、「大きな物語」の圧迫のゆえに、葛藤し、自らの矜恃を保ったために、
不幸や不運を引き受けざるを得なかった人々が、
実は、社会の判断とは異なる「幸い」に生きていたことが明らかに語られる。
「大きな物語」に対峙するためには、
それに上手くはまって「幸せに」生きることを余儀なくされる、
しかも、一度ことがあれば「大きな物語」から拒絶される
私たちの物語を語ることしか方法はないことを
この短編集は改めて思い起こさせてくれる。
素浪人横丁―人情時代小説傑作選 (新潮文庫)
最近、江戸時代を舞台にした時代小説というジャンルは、なんとなく女性作家のほうが活躍している感じですが、これは昔の骨太な男性作家がズラリとそろったアンソロジーです。主を失い放浪の身の心もとなさと、武士の挟持のはざまで己を貫こうとする主人公たちは皆カッコイイ。人情時代小説集ではありますが、その中でも読後感がかなり潔くスッキリとする一冊です。
上意討ち-拝領妻始末- [DVD]
立派な作品です。小林正樹監督らしい真摯な精神に溢れた作品です。しかし、同じ小林正樹監督の『切腹』と較べると、物語の展開に今一つスリルが不足して居て、見劣りがしてしまふ事は残念です。−−『切腹』を見て居ない方は、是非、御覧下さい。『切腹』は、日本映画のみならず、世界映画史上に残る傑作です。
それにしても、『切腹』や『上意討ち』で、小林正樹監督が描いた「組織に裏切られた個人」への視線が、小林正樹監督のドキュメンタリー『東京裁判』に生きて居ると感じるのは、私だけでしょうか?
(西岡昌紀・内科医/戦後61年目の夏に)