「戦艦大和」日記〈1〉 (早坂暁コレクション)
時代の流れも、人の未来も結局は誰にもわからないんだと言う早坂暁の感慨が切実に伝わってくる。「理由も分からずにおしつけられたものを大人しく受け取って、理由も分からずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ」という中島敦の山月記の中の述懐が思い出された。巨大戦艦建造に疑いもなく進んでいく軍人たちの狂奔、困難な課題の解決がすべての造船技術者たちの興奮、時代が冷静に見えるが変える力のない反戦軍人水野広徳の切歯扼腕がない交ぜになって時代が進んでいく。軍部と政界が主導権争いに縺れながら急速に戦争になだれ込んでいく様が山頭火、舞姫崔承喜、ゾルゲ、さらには2.26事件、阿部貞事件などの世相を散りばめて日本の日記風に編年体で書き進められているので受験勉強で覚えた断片的な知識が色形をもった歴史として目の前に広がる。えっ、東条英機は関東軍憲兵隊司令官だったのかなどの驚きもある。文章は非常に読みやすく、早坂暁のシナリオライターとしての力量か、時代がダイナミックに目の前に見えるように展開するような感じさえして、一挙に読み終わった。感じとしてはドラマを見ているような面白さなので、途中途切れずに全五巻を通読したいと思った。全五巻を揃えて再度一巻から通読するのが楽しみだ。
フジテレビ開局50周年記念DVD 熱帯夜
まずは、祝!初ソフト化!
松田優作ファンの方で、この日を心待ちにされていた方も多いのでは?
和製ボニー&クライドとして括られるこの作品、内容詳細等は優作関連サイト等をご参照頂くとして、ここでは私なりの本作品の「見どころ」を紹介させていただきます。
●松田優作&桃井かおり、2作目にして最後の共演作品
同じ文学座に席を置き、無名時代からの盟友であった二人の、貴重な共演作品のひとつです。共演第一作、向田邦子原作の『春が来た』では、役作りの上で対立・確執があったとされていた二人ですが、撮影に入るまでに和解、そんな背景を感じさせないくらいの息の合った演技を披露、かつ、役者同士として火花を散らしていました。そして、時を経て
本作品へ。二人の「息の合いっぷり」は前作よりもさらに自然に、洗練された印象を受けました。畏友と呼んでも差し支えない位の、二人の役者としての「間合い」を感じながら鑑賞するのも良いかと思います。
※2作目とは、主役共演という部分で括らせていただきました。二人はこの他にも『ホーム スイート ホーム』(1982年)という連ドラの内の数話で共演を果たしています。
●「昭和」を彩った、キラ星のような挿入曲の数々
『時には母のない子のように』、『川は流れる』、『フランシーヌの場合』、『青春時代』、『昭和枯れすすき』等、昭和歌謡の名曲が、それぞれ印象的なシーンに重ねて用いられています。また、レコード・CD化されなかった宇崎竜童による主題曲、象徴的に使われた劇中オリジナル曲の『熱帯夜』、『海辺の蛍』、『夢からの挨拶』も含めると、名曲・佳曲のオン・パレード!といった感じです。
●脇役の演技にも注目!
この作品を印象的なものに創り上げたのは、優作&かおりの演技だけではありません!脇を固める役者も素晴らしい!岸部一徳、せんだみつお、熊谷真実、ケーシー高峰、おすぎ&ピーコ等、それぞれ役にハマった演技を見せてくれます。また、端役(失礼!)の方達の演技も要注目!例えば、犯罪・逃避行を続ける英二達が湖畔でキャンプしているシーンに登場するお巡りさんとか、本物?と思ってしまう位の、自然な演技をしています。
長々と駄文を連ねてしまいましたが、このドラマは、優作ファンの方はもちろん、それ以外の方にも是非観て頂きたいです。上手くは言えませんが、昨今のドラマにはあまり見あたらない、血の通った何かを再見して頂けるのではないかと思います。
私はアクションから日常の演技へと軸足を変えつつある、若き日の優作の姿を再び観ることが出来るという思いですでに満腹状態。
華日記―昭和生け花戦国史 (小学館文庫)
生け花を習っているときに、流派って何だろう?どう違うのか?という
疑問がわいてきて、その時に出会ったのがこの本です。
各流派の起源やいさかいなどを含めた関係、方向性、そして存続していく
利益づくりの試行錯誤などがわかります。
歴史の本ですが、花を中心とした人間ドラマですので、退屈しません。
戦後の焼け野原の中、食べるものもろくにない中で花を集め生けていく
流派の創始者たちの熱意には心打たれます。
西洋のフラワーアレンジメントを含め、日本において花に関わろうと
いう人には、読んでおいて損のない一冊です。
君は歩いて行くらん―中川幸夫狂伝 (「美」の人物伝)
とても面白い。筆者がかつていけばな評論家だったとは驚いた。巻末から想像するに、フィクションとノンフィクションを巧みに織り交ぜてあるのだろうが、さて、どこからがフィクションなのだろう。まるでドラマを見ているような展開で、読んでいるとどんどん映像が浮かんでくる。さすが名脚本家が書いた小説といえる。