かわいそうだね?
文句なしに面白い。
随所で笑えるだけではなく、いろいろな伏線を巧みに配置して、クライマックスに持って行くストーリーテリングの冴えは、ただ見事という他はない。
しかし、面白く巧みなだけの小説なら、他にくさるほどある。
ここに収められた2篇が卓越しているのは、その上品さだ。
「かわいそうだね?」の樹理恵ちゃんも、「亜美ちゃんは美人」のサカキちゃんも、人間として実に品がいい。その品のよさは日本語では表しにくく、英語のディーセント(decent)という言葉が最もあたるような種類のものである。
大江健三郎賞を受賞したが、大江も「ディーセントな人間」を高く評価していた。
上質なエンタテインメントでありながら、根源的にディーセントであるがゆえに、平凡なヒロインたちが、その欠点も弱さも含めて、いや、それゆえになおいっそう、崇高な存在にすら感じられてくるのである。
勝手にふるえてろ
主人公の気持ちに深く共感しました。
私も中学のころ好きな人がいて、何か一言話せただけでもすっごく嬉しかった。
相手はとっくに忘れているだろうということをいつまでも覚えていたり。
そんな気持ちを思い出しました。
深くて細かい心理描写が素晴らしいです。
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やっぱり「萌え」などと言われてしまう作品になっているんだと思う。上戸彩も神木君もそれぞれむちゃくちゃ可愛い。
主人公の悩みなんかは全てナレーション(上戸彩の語りは悪くなかったと思う)と「ある部屋」での会話にまかせて、演技は上戸彩の女子高生的なカワイさを全面に押し出しているように思えてならない。
かたや神木君も「大人がかわいいと思ってしまう男の子」を見事に演じきっている。主人公のほうはともかく、彼のほうは原作者の綿谷りさが表現していた男の子にすさまじく近い印象を受けた。
別に刺激的な内容でもないが、動物が出てくる映画と似た感じで「ああーかわいいなぁ」なんて気持ちで見られるかもしれない。思春期を過ぎていれば。
勝手にふるえてろ (文春文庫)
表面上のコメディタッチのストーリーと背後にある物悲しさが重なり合っている。
また、数多くの隠喩が埋め込まれていて、見た目以上に複雑な作品である。
この小説を理解する上で最も重要な要素は、主人公が抱える「心理的な問題」である。しかし、それは明示的には書かれていない。
彼女は、通常はごく普通のOLで、時には行動的ですらあるが、「好き」という事に関しては非常に純粋で、あまりにも傷つきやすいため、
回避的な様相を帯びてしまう。つまり、好きな相手に対しては、拒絶されることを極度に恐れるあまり、相手の本心を確かめることもないまま、
初めから自分は好かれていないと思うのである。
自分が好かれていて、尚且つすべてを受け入れてくれるという確信が持てない限り、恋愛は成就することはない。
彼女に残されているのは、好きでない人の愛を受け入れるという選択肢だけである。
表題の「勝手にふるえてろ」は、イチではなく、本当は主人公が自分自身に言った言葉であろう。
寄る辺のない彼女の「ふるえ」こそ、この作品の主題である。
そしてそれは、読者に、胸の痛む思いと共に、いとおしい感情も引き起こすかもしれない。
蛇にピアス (集英社文庫)
共感できた登場人物は1人もいなかった。感動する場面など無かった。特に面白いストーリーでもなかった。身体改造などに興味があるわけではないので、本書に書かれていることがどれだけ正しいのかは分からない。
しかし、そんなことはどうでもいいことだ。本書の魅力は文体にあると思う。本書には何箇所か過激な描写があるが、なまなましさはない。突き放したような感じで書かれている。何事にもさほど夢中になれず、自分に関することなのに興味を持てず、自分のことなのに何が起こっているかうまく分からない。そういった感覚をともなった本書の描写は、ある意味、とてつもなくリアルでさえある。