日本の心を唄う 現代日本歌曲選集 第2集
ヴェルディ・レクイエムの「ラクリモーサ」を独唱した際、あまりの絶唱に女声パート全員が涙を流し歌えなかったという逸話を持つ大歌手柳兼子が、老境に入って録音したレコードのCD版である。日本歌曲史の中に埋もれてしまうかと思われたこの録音が21世紀になっても聴ける。生きててよかった。往年の大歌手が声を失った代わりに到達したのは直接こころにとどく孤高の芸術だった。私も涙と共に聴かずにはいられなかった。遠くから聞こえてくる「いずれの日にか国に帰らん」の一節など、嗚咽とでもいおうか、望郷の一念をここまで歌い上げた歌唱を私は知らない。
室生犀星詩集 (新潮文庫 (む-2-6))
編者福永武彦氏により、24冊の詩集から187編がまとめられている。室生犀星の詩は1300編もあるそうだからすべてを手に入れるのは不可能だろう。手元に置いてときおり感傷にふけりたい、あるいは旅に持ち出して抒情を味わいたいなら文庫が最適かと思われる。
編者は「若い人に向く」詩を選んだそうだが、多くの人の記憶にある秀作はほとんど含まれているのではないだろうか。小景異情「ふるさとは遠きにありて思ふもの」、寂しき春「したたり止まぬ日のひかり」、靴下「毛糸にて編める靴下をもはかせ・・・おのれ父たるゆえに・・・煙草を噛みしめて泣きけり」etc.
僕は考へただけでも「死んでみようと戯談に考へただけでも」は含まれていない。
そして、読み味わえば、知らなかった室生犀星に出逢える。詩集だから、好みに合うかどうかしか評価の基準はない。そして、今は流行らないのだろう。街の本屋を探しても容易には見つかるまい。そのうち絶版になるのかもしれない。
永日「野にあるときもわれひとり ひとり、たましひふかく抱きしめ・・・血みどろにをののけど・・・なみだしんしん涌くごとし」
あにいもうと [DVD]
「あにいもうと」は、「めし」から始まる成瀬巳喜男の50年代の傑作群の中でも特に異彩を放っている。それは馴染みのスタッフと離れて大映で撮った作品だからか、室生犀星の原作の持つ荒々しさが成瀬の繊細さと微妙にすれ違ったからだか良く分からない。中絶と、男女や家族の諍いなどはほかの成瀬作品にもよく出てくるけれども、「あにいもうと」がそれらと少しちがって見えるのは、真夏のために大きく開け放たれた百姓家の中で演じられる京マチ子の妹と、森雅之の兄のすさまじい乱闘シーンによるものだと思う。このシーンはあの「羅生門」の決闘シーンよりも優れていると思う。他にも久我美子が優柔不断な恋人を罵るシーンや、森雅之が妹を妊娠させた船越英二をとっちめた後に、妹に対する深い愛情を吐露するシーンなど、どれも素晴らしい。なによりも驚かされるのは、これらのシーンがすべてセット撮影であることで、それがその前後のカットと完全に調和している。他社で撮ってもこれだけの水準のものができてしまう当時の撮影所の技術の高さと、成瀬巳喜男の演出、京マチ子をはじめとする出演者たちの素晴らしい演技がひとつになった忘れがたい作品。
杏っ子 (新潮文庫)
金沢三文豪の一人である室生犀星の最長の長編ですが、もともと新聞小説であったため、一章の区切りが現在の新聞小説と同様に短いので読みやすく、2週間ほどで読破できました。室生犀星の自伝的小説で、芥川龍之介などの実在の人物が実名で登場します。犀星の幼年時代からの話も前半にありますが、中心は娘が生まれて、結婚してからの話です。結婚生活をすぐに諦めて投げてしまう人物と苦しみを重ねても結婚生活を続けていく人物が対照的に描かれています。こうした中で、犀星がモデルの主人公は、苦しんで生涯の損をするところから芸術とか学問とか映画というものが作り出される、人間は一生不幸であってたまるものか、と語ります。困難にたたきあげられて強くなっていく登場人物の姿勢は感動を呼びます。
繰り返し読みたい日本の名詩一〇〇
詩集を初めて買う方にも、そうじゃない方にもお勧めな一冊です。高村光太郎の「レモン哀歌」や中原中也の「汚れちまった悲しみに…」など。皆一度はどこかで読んだ事があるような代表的な詩ばかり。
ちなみに私は石垣りんさんの「くらし」が好き (・_|
いろんな人の詩が入ってるので、新しい詩人との出合いがあるかも。
お勧め!