名曲・名演の違いを探る!! CDでわかるクラシック入門
広上さんのことを知る者として、「ヒロカミが監修したクラシック本」に興味があり購入した。
内容は私のようなクラシック中毒者が読んでも、目からウロコの本である。
本書は、大きく2部にわかれており、前半は、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」をテーマに、クラシック音楽の魅力を伝えようと試みるものである。
「指揮者によって、同じ曲でもこんなに違う」ということを、2つの演奏で比較することに始まり、「運命」はこんな感じに出来ていると、作曲家の創意工夫をわかりやすく分析し、さらに、各楽器の用法の例まで紹介する。
若干駆け足ながらも、必要なポイントはおさえており、専門的なことまできちんとわかりやすく伝えるのに成功していると思う。
後半は、他の名曲をふんだんに紹介しつつ、ピアノの話やら、音楽の形式やら、記号やら、歴史やら、「よりクラシックが好きになるための、ちょっとした知識」を色々と取り上げる、通常の「入門書」のような内容。それでも、ヒロカミが絡むと、かなり複雑なことまで、面白そうに書いてあるから不思議。
難点をあげるとしたら…、付属CDの音源。
「運命」全曲が、モノラル録音にステレオ感を人工付加した「疑似ステレオ」で収録されていること。初心者に聴きづらいという配慮だとしても、この演奏ならモノラル盤のほうがより自然な響きが楽しめるのだから、結果的に「演奏の素晴らしさ」を損ねた音源を収録しているのではないか、と疑問に思う。
とはいえ、EMIの音源が使用されており、他の曲の演奏のチョイスは良心的で、それぞれの曲の良さを伝えることには成功していると思う。
通常の「入門書」では「まず聴くべき1曲」が絞れなかった人も、「運命」という絶好の1曲が選曲されていることで、迷わずに入門でき、逆にクラシックを長く聴き続けた人にも、改めて「復習」するのに役立つ、こんな本を、よくぞ出してくれたものだと感謝する。
ヘルベルト・フォン・カラヤン写真集
確かに、この本に掲載されている写真の90%以上のものは、初めて見ました。
また、ムターや、キーシンの感動的な文章には感銘を受けました。
写真と共に、カラヤンの知らなかった面を見させてもらい、この巨匠への思いが深く、強くなりました。
ただ、残念なことに、モノクロ写真が中心で、明らかにカラーであるはずの写真もモノクロです。
カラー写真は、ごく僅かしかありません。
素顔のカラヤン―二十年後の再会 (幻冬舎新書)
自分にはとても敵わないような抜群の能力をもった人物をみたとき、英雄として仰ぎ見る人と、欠点を探して貶める人とがあるように思う。カラヤンの場合、本人が弁解を一切しない人であったこともあり、毀誉褒貶はとりわけ激しかったし、今も激しい。クラシック音楽の愛好家の中では、カラヤンを嫌い、その悪口を言わなければ一人前でないかのように思われている節もある。しかしそれらの罵詈雑言の大半が名誉毀損にも相当するような事実無根の誤解・曲解であることは、種々の伝記を総合した結果ほぼ間違いないことに思われる。これについても、カラヤンの検閲を通過した書物しか流通していないからだとする人は多い。そこまで疑われたら当方も証明の仕様がないけれど、こうして没後出てくる回想記にも、私の知るカラヤン像との矛盾はとくにないようであるから、彼が口ベタでシャイで質素で謙虚な人柄であったことは、大きな間違いではないのであろう。つまりオビに書かれている「こんなカラヤン知らなかった!」という文句は、マスコミがした歪曲を自己修正したに過ぎないのである。確かに大半の人はマスコミが作ったカラヤン像に踊らされて知らなかったのであろうが、彼の伝記をきちんと読んだ人には自明のことばかり。アンチ・カラヤンの誤解をあえて弁護して言うなら、カラヤンの取り巻きがカラヤンの虚像作りに大きく「貢献」したのだろうと思う。
著者はカール・ベームの回想記を書いた人だと記憶している。カラヤンの死後20年経って、楽壇が彼を失ったことの測り知れない損失が、本書から実感できる。日本人の回想は地元ヨーロッパの書物にはまず引用されないから、これは貴重な資料である。