鬼ゆり峠〈上〉 (幻冬舎アウトロー文庫)
この種の本の最高傑作は「花と蛇」が定説ですが、この本もそれに勝るとも劣らない作品です。
作品が時代もので、そこに仇打ちと言う設定があり、更に、卑怯な手口で返り討ちに会うと言うもので、その間のいたぶり具合が、SM小説として真髄になっています。
そこには、武士階級と言う裃を着た世界の住人と言えども、素裸になれば生と性しかなく、その強いられる責苦ではあるものの感情の高ぶり興奮は抑えきれないものだと言うことでしょう。
このあたりの描写、筆致は、流石にこの世界での第一人者の風格を感じさせてくれます。
ただ、導入部のお駒や雪之丞・お小夜の部分は無くもがなと言う気がします。浪路・菊之助に話を集中した方が、小説としての纏まりは良かったような気がします。
蝿の帝国―軍医たちの黙示録
戦前、医大の卒業者は、徴兵で召集された場合は一兵卒として二等兵で入隊しなければならないが、
軍医見習士官として志願すれば、数か月の実務後に軍医中尉として遇されるという道を選ぶことができた。
一兵卒と士官待遇の差は大きく、誰もが志願し軍隊を経験することとなる。
その様な大学を卒業したばかりの若者の空襲、原爆、洞窟戦や、ソ連による占領、捕虜、戦犯などの体験談を作者がまとめ上げたものです。
(恐らく医学誌の寄稿文を作者の目で書き直したものと推測)
通常の軍隊記と比べると、前線での戦闘はないものの、徴兵検査員だったり、原爆症の調査だったりと他ではなかなか読むことのできない興味深い内容でした。
ただ『蝿の帝国』というタイトルの為に、この本を手に取るのを躊躇してしまわれる方が多いのではないかが心配です。
全15話のうち、蝿の出てくる話はたったの1話。わざわざこのタイトルにする必然性は全くなかった。
軍医たちの黙示録だけで十分で、そのほうがよかったと思います。
閉鎖病棟 (新潮文庫)
とにかく、ぜひ一度読んでみてください。
作品中、登場人物のエピソードに幾度となく涙し、終盤では嗚咽を漏らして号泣していました。何度読み直しても同じ感情の動きを味わうことのできる、色褪せない作品です。そして映画化もされていますのでそちらもぜひご覧ください。
小説の映画化にありがちな些細な設定の違いにも違和感を感じることのない秀作です。チュウさん役の役者さんがとてもすばらしい演技をされています。
このような文章ではちゃんとしたレビューとは到底いえませんが、
お勧めしたい気持ちだけでも伝わればと思い書かせていただきました。
わたしはこの本に出逢えたことをほんとうに感謝しております。
ことあるごとに人にお勧めしたい大切な一冊です。