脂肪のかたまり (岩波文庫)
3組の夫妻、2名の修道女、自由人、娼婦 ・・・ 主人公は存在せず、全ての登場人物は客観的に描かれている。
だから、誰かに感情移入してもいいし、現代人なら傍観者の立場で読むことが多いだろう。
馬車が前に進むためには、娼婦のブール・ド・シュイフが、敵の仕官に身体を赦す必要があった。
娼婦はそれを頑なに拒む。
しかし、周囲の人間がそうさせまじと必死になっていく。
彼らにも最初は小さな良心があったのだが・・・。
後押ししたのは、彼女が仕官に選ばれたことを、女たちが妬ましく思えてきたからではなかろうか。どうして自分ではないのか、と。
ともかく、ブール・ド・シュイフの決断によって物語は進む。
この物語には、集団の中での倫理や人に言えない偏見、エゴイズムが詰まっている。題名からしてあつかましい。
すぐに読める短編作品だが、いろんな人の立場で読んでみると違った理解ができて興味深いと思う。
女の一生 (新潮文庫)
子供時代に読んだときは、女癖の悪い男に騙され、放蕩息子の犠牲になる哀れな女の話に過ぎないと思い、ストーリーの暗さにむしろ嫌悪感を覚えた。
だが成長してもう一度読み返したときは、文体の美しさに改めて魅了され、見事に描き出されている失われた貴族階級の優美さに心惹かれた。
モーパッサン短篇選 (岩波文庫)
三浦哲郎が「帰郷」を褒め、夏目漱石が「首飾り」を批判したモーパッサン。
本短編集は珠玉の名作揃い、訳文も素晴らしい。
短編作家モーパッサンの魅力は語りにある。
題材は現在ではありふれたものかもしれないが、語り口は現在でも超一流、人間観も素晴らしい。
「椅子直しの女」「シモンのパパ」「小作人」などは実に実に素晴らしい。
男性・女性 HDニューマスター版 [DVD]
この映画は、当時のフランスのアイドル歌手、シャンタル・ゴヤの主演映画として企画された。ヌーベル・ヴァーグの騎手として白羽の矢を立てられたのがゴダールだった。しかし、そこはゴダール。ただのアイドル映画をつくるわけがない。『大人は判ってくれない』でデビュー以来、ヌーベル・ヴァーグに欠かせない男優、ジャン・ピエール・レオとシャンタル・ゴヤをカップルにして、瑞々しい青春映画を作り上げた。
演技の出来ない若い役者たちの新鮮な表情を引き出そうと、ゴダールはインタビューという手法を用いた。脚本にセリフを書かず、ジャン・ピエール・レオにイヤホンをつけさせ、ゴダール自身が若い女優に聞きたいことをどんどん質問する。それをジャン・ピエール・レオがセリフとしてぶつけていく。予想もしない会話の展開に本音で答える若い女優たちがとても面白い。
この他にも当時としては画期的な撮影方法をいろいろ取り入れているのだが、それでも、作品全体として青年期の男女の恋や友情や焦り、悲しみ、希望といったものをしっかりと定着させている。スイスからフランス・パリに移り、ボヘミアン的な生活をしていたというゴダールのもっとも自伝的な要素の強い映画だろう。