北海道 化石としての時刻表
時刻表には確かに多くの情報が詰め込まれているわけですが、それを
読み解き、深めると、こんなにもドラマチックな物語が見えてくるなんて!
ちょっとショッキングなくらいの斬新さに、圧倒されっぱなしでした。。
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章ごとにいろんな視点から、鉄道にまつわる物語が、まるで鉄道史を
目の前で見守ってきたかのように活き活きと語られます。
例えば、峠を越える路線では、登りと下りの時間差から山の険しさに
思いを馳せ、また幾度ものダイヤ改正を丁寧にたどることで、駅や路線の
変遷、さらにはそれぞれの時代の乗客たちの生活や、路線周辺の町の
栄枯盛衰までもが浮き彫りに――
あるいは、あの有名な「津軽海峡冬景色」で船の窓際で思いをはせる
『彼女』の足跡を追いつつ、ささやかに突っ込みを入れてみたりも…^^
そして、ひときわユニークで愉快なのが、最終章の第五章。著者の
想像力(妄想力?)が、膨大な薀蓄とともに溢れ出てます^^;
100才を超えた長老駅や平成生まれの若い駅たちが、なんと擬人化され、
北の酒場で筆者と熱く語り合ってしまいます。
北海道の鉄道にあまり詳しくない人は、第五章はJR北海道の路線図を
参照しながら読むと良いかもしれないですね。 逆に腕に覚えのある人
であれば、章末の補注をあえて参照せずに読んで、駅たちが語っている
出来事が何を指しているのか、知識を試すのも面白そう。
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鉄道の本、といっても、鉄っちゃんによる知識の羅列や個人的な想いを
語るだけの内容ではなく、むしろ誰にでもできる積極的な旅の味わい方
を教えてくれるようなアプローチなのも、この本の魅力だと思います。
読んでいてうらやましくなってしまうほどの著者の想像力と好奇心
が、時刻表の数字でだんだんひとつの物語として繋がっていくさまは、
まさに「圧巻」! 時刻表を見る目が一気に変わりました。
そんな、時刻表で巡る鉄道史の物語に…、札幌黒ビール★で乾杯!!
海峡 [DVD]
完成までに20数年を要した青函トンネルの史実をモデルに描く大作。
しかし、日本の「大作」にありがちな緊張感のなさが、やはりこの映画にも感じられる。物語のどこにスポットをあててドラマを組み立てるのか、そのポイントがはっきりとしない。ストーリーの本筋は青函トンネル完成のために、あえて家族をも犠牲にして仕事に使命感を燃やす主人公(高倉健)の苦悩にあることはわかるが、その「苦悩」があまり観る者には伝わって来ない。
また、「最強の共演者」としてキャスティングされているのであろう吉永小百合の役処も、取って付けたようで、うまく機能していない。単に高倉健と吉永小百合を共演させたかったという制作側の「欲望」だけを感じてしまう。健さんの苦悩を出すには、健さんの妻役にこそ吉永小百合を当て、仕事と家族との葛藤をもっと顕在化されるべきだっただろう。
さらに言うならば、戦艦大和、伊勢湾干拓と並び、時代の変化を見抜けなかったが故の「予算の無駄使い」(一般に「昭和の三大バカ査定」と言われているが)とされ、難事業であったにも関わらず、完成時には決して「祝福」されなかった青函トンネルとその関係者の「悲運」も同時に描くべきだったように思う。
扱う題材や舞台の良さを、脚本構成や編集作業が生かし切れていないようだ。史実を追いながら同時に何を物語のポイントとしたいのか、それがきちんと考えられていないと、このような散漫な内容になってしまうという、残念な映画の典型であるように思う。
プロジェクトX 挑戦者たち Vol.2友の死を超えて ― 青函トンネル・24年の大工事 [DVD]
難工事だった青函トンネル工事。番組のエンディングで、指揮をとった方が、工事中の事故で、亡くなった方々の写真を胸に掲げながら…一緒に貫通地点を越えた場面は、思わず涙します。名作です。
新版 匠の時代 4 (岩波現代文庫)
本書は国鉄技術陣の様々な物語を1冊に収録したものです。個人的には匠の時代の中でもベスト3に入る物語です。5編から成り、新幹線、青函トンネル、新宿駅24時、技術長室物語、国鉄技術の明日、と銘打たれていますが、私のお気に入りは「新宿駅24時」です。この話は他の「匠の時代」と少し毛色が異なり、新技術開発というよりは、出札、改札、人員整理などノウハウ、スキルの匠が紹介されていると言った方がいいでしょう。マンモス駅新宿で24時間働く様々な人が紹介されていますが、これらの方々にスポットライトを当てた著者および新宿駅で働かれている職員の方々には多大なる拍手を送りたい気持ちです。現在の人員体勢はわかりませんが、本書を読んだ後に新宿駅に行ったら駅の風景が又違って見えることでしょう。
本書を通じて感じたのは、日本の将来を真剣に考えながら、単なる欧米の真似ではなく日本にあったソリューションを独自に生み出していった技術陣の凄さです。これは現在欧米スタイルの経営手法を盛んに薦めるコンサルタント達に強く認識してもらいたい点です。日本企業のコンサルタントをする人たちは、ポーター、コトラーなどの本を読むのもいいですが、まず「匠の時代」を読んで、経営手法だって日本独自に発展したっていいじゃないか、という気持ちになってもらいたいです。
本書、コンサルタントだけでなく勿論全ての人にお勧めできます。