pepita(ペピータ) (井上雄彦 meets ガウディ)
一見、上製本かと思いきや表紙にしっかりとしたボール紙を使用しているのは
付属のDVDと初回限定のカレンダーを収めるためのよう。
左側にDVDとカレンダーが収めてあり、右側にソフトカバー?の本がぺたりと貼り付けてあります。
読みにくいです。
内容に関しては、ガウディの企画モノとしては今一つ。
某番組で『失恋建築家ガウディ』と題して「カサ・ビセンスはペペータ(ペピータ)への
ラブレターだった」と言うロマンスの切り口から建築を語る斬新さや、
久石譲氏を招いて資料を元に仮説をたて、サグラダ・ファミリアのカリヨンから
未来に鳴り響く音色を導き出したり…と言うような刺激を受ける面白さはない。
建築写真、風景写真にドローイングやイラストが描き込まれたモノがあります。
稀に嫌悪感を抱く方もおられるので、そういった方は避けた方が無難。
あくまで井上氏によるガウディの足跡をたどったルポなので
ある程度ガウディをよく知る方には目新しさはないでしょう。
創作ノートの部分が主体なので井上雄彦氏のファン向けの書籍ですね。
次回作の漫画の舞台は日本から海外へ移るのでしょうか?
どちらかと言えば、井上氏より井上氏の描く漫画が大好きなので
本書は今一つでしたが、次回に描かれる漫画には絶大なる興味があります!
天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)
「天才」と呼ばれる人は世間並みの人間とはどこか違っている。
その違いの源泉はどこにあるのか。近年は能力の優劣だけでなく、その特性ということにも注目が集まっている。
誰それはどうもアスペルガー症候群であったとか、AD/HDの要素があったとか。ある種の偏りがあったからこそ他の人が気付かないようなことに気付き、出来ないようなことが出来たという話である。
設計士である著者自身も視覚優位の認知特性を持っている。そしてその認知と特性を職業生活に活かし、活躍している。
これまで医者や研究者が観察して記述したものはいろいろあった。そういった専門家による観察や考察にも十分価値はあるが、どこか外部からのまなざし、共感はあっても対象についての記述という印象は否めなかった。やはり当事者でないとわからないこともあるし、感じることの出来ないこともある。
また、単なる経験談ではないことにも注目である。当事者が自分の経験を語るという形式の著書もこれまで多く出版されてきた。それも十分に価値があるがやはりある個人の経験という域を出ない部分があることも事実である。
だが、本書は著者が自分の経験や体験を語ることが目的なのではなく、視覚優位・聴覚優位という認知特性について当事者だからこそわかる視点を持って考察することが本書の特色なのである。当事者と研究者の協力によってこれまでにない新たな見解や考察が生み出されている。
確かにダイレクトコミュニケーションのようなオカルトチックなちょっと怪しげな話もあるが、こういった話は当事者でないとわからない感覚であろう。また視覚優位・聴覚優位といったことはこれまでも数多く目にしてきたが、視覚優位でも時間の概念も加えた映像思考、色優位性と線優位性、客体視などの分析を見るとこれまでの認知についての理解が如何に浅薄であった思い知らされた。視覚優位と時間概念という話は自閉症者の認知理解にも役立つであろう。
本書では特異な認知を持った偉人としてガウディとルイスキャロルを中心に取り上げている。聴覚優位のルイスキャロルについての記述はまったく異なった認知様式を持つ他者を何とかして理解しようとする著者の考察が面白い。自分と同じ視覚優位のガウディについての記述には親近感を感じさせる部分が多いが、ルイスキャロルについての記述もタイプは違えども世界への理解に対して困難さを持ち、その困難さ故に偉大な仕事を成し遂げた先人への共感を感じさせるものとなっている。時として客観性を欠くような部分もあるが、だからこそ文章に力を持たせているともいえる。
帯には「10年に1冊の画期的な人智科学の登場である」と書かれている。
大袈裟な文句にも見えるが、それぐらいの価値はある書である。
当事者研究としても、認知についての研究としても第一級の価値をもった書である。