岡本かの子 (ちくま日本文学)
岡本かの子の代表作『家霊』『老妓抄』などの代表的な作品を含む短編と、歌集や太郎との手紙の一部なども収録されている充実の一冊です。
私はどの作品も大好きで、母として、女として、芸術家として、かの子という人の脈動が伝わってくるような気がします。私はやはり『家霊』がお気に入りで、料理屋にどじょう汁をもらうため、あの手この手を使う(!?)おじいさんには何度読んでもくすりと笑ってしまいます。こんなに日常のちょっとユニークな人を温かく描くのが、かの子の作品のすばらしさであると、個人的には思っています。
また、かの子の作品には、料理屋や食に関する話や描写も多く、その視点も台所に立つ母親の視点のようで親しみやすかったし、「いのちを食す」ということのおかしみやすごさなども考えさせられます。
老妓抄 (新潮文庫)
読みやすい文体ですらすら読めますが、
各登場人物は欲求の強いくせ者達です。
スタンドプレイに陥りがちなくせ者が、
周りと関わり、生かされ、生活している姿から、
人との繋がり、当時の世間というものに安堵感を感じました。
岡本かの子という人は、人を信じて愛して生きていた人なんだろうなぁ。
などと考えてしまいました。
食べ物に関する表現は目を見張るものがあり、
食いしん坊の方にも是非読んで戴きたい1冊です。
家霊 (280円文庫)
著者は、1889年生誕、夫は、一平そして、息子は、太郎です。収録作は、老妓抄、鮨、家霊、娘の4作です。
老妓抄は、小金持ちの独身の平出が主人公です。養女が1人いますが、自分自身若い時に身も心も捧げてある事に集中したかつたができなかった、それが遠因に成っているのかどうか、、野心のある若い柚木を援助します。柚木は、それが負担になり、何度も遁走しますが、その都度連れ戻され・・・
鮨は、店の常連である年配の湊と、ひそかに彼に好意を寄せる福ずしの看板娘、ともよの物語です。ある日買い物の帰り、湊に偶然出くわし、湊さんは、お寿司が好きですねと云う話になります。彼は、実は、小さい頃拒食症で何も食べられなかったが、母親が、目の前でお寿司をにぎつてくれて、それでやっと食事が出来るようになった。今では、歳をとり母親が懐かしくなり、それで鮨まで懐かしくなるんだよと教えてくれます。しかし、それ以来彼は店に来なくり・・ 家霊は、老いぼれた彫金師、彼は、昔泥鰌店のおかみの境遇に同情し密かに心を寄せていました。おかみは、どじょう汁のお代の代わりに、彼の作品を貰いそれを宝にしていました。そのおかみは、病気で娘に帳場を譲り、年老いて落ちぶれた彫金師が娘にどじょう汁をせがみに来ます・・・
どの作品も女の情念が強く出ていて、どこかかの子の生活、人生を彷彿させる物があります。かの子の作品を読んだのは、ほぼ45年ぶり。高校自代、国語の先生が、かの子の写真を見て、なかなか美人やなと言ったのを聞いて、ゲゲっと思いましたが、彼女の人生を振り返って見てみると、そう考える人も確実にいるのだなだなと思う今日この頃です。
かの子撩乱 (講談社文庫 せ 1-1)
最初かの子や一平の内面まで迫りぐいぐい読ませるのですが、欧州滞在時は資料が少ないのか事実の列挙で中だるみぎみになります。
綿密に取材されていますが、文学的感動はいまいちでした。岡本家を知るにはよい本だと思います。
この本の後、岡本かの子の「鶴は病みき」と「母子叙情」を読みました。「母子叙情」に出てくる岡本太郎はとっても魅力的でした。