空白の叫び〈中〉 (文春文庫)
【上】で、殺人犯になった3人。
これまでまったく接点のなかった3人が、少年院で出会う。
ただし、出会ったからといって、大親友に発展するのではなく、
やはりそれぞれの視点で、少年院での生活や人間関係や生きていく術を体得していく。
(逮捕や裁判なんかないのがスピード感があってよかった)
少年院は、刑務所と異なり、罪を償うのではなく、反省や更正をするところ。
ごめんなさい、もうしません…それだけ?
被害者や遺族にとって、それってどうなんでしょうか。
確かに、子供だから、力の加減や我慢をすることが分からず、
「誤って」殺したり、盗んだりするかもしれません。
けど、この3人、被害者を思い切り憎んでいましたが??
それでも、更正??
アメリカでは、犯罪の内容によっては実名報道されるし、
大人と同じように裁かれるし、同じように服役する。
親元から追い出された神原君と葛城君、いまだ同居する久藤君。
水島君の「銀行強盗」がかなり気になりつつ、【下】に続きます。
被害者は誰? (講談社文庫)
容姿端麗,頭脳明晰だけれど無茶苦茶な性格の探偵役と,
この男の頼りない後輩のふたりがメインとわかりやすい設定.
また全体的に軽めの文体なので読みやすい作品だと思います.
収録されている4本とも『○○は誰?』というタイトルになっていて,
文字どおり,ある人を探す(読み当てる)感じのミステリです.
となると「犯人探しか?」と思うところですがこれが違っていて,
『被害者』や『目撃者』などちょっと変わったところがターゲット.
主人公たちのやり取りも軽妙で,ドロドロしたような感じもありません.
また作品すべてがミスリードになっていることがすぐにわかるので,
最初から『引っ掛け』とわかっているぶん,パズルを解くようなおもしろさでした.
中には「これを読んで当てて(探して)みろ」という作品までありますので.
とはいえそのミスリードに無理矢理感はなくむしろやさしめの印象です.
いろいろと『裏読み』をし,じっくり考えながら読んでみてください.
乱反射 (朝日文庫)
本書は無関係な人々のエゴイスティックな行動が積み重なって幼児を死に至らしめる悲劇を描くエンターテインメントである。第141回直木三十五賞の候補作となった。
本書は別々に進行していた物語が実は互いに関連があったというジグソーパズル的な手法を採っている。但し、意外性をウリにするジグソーパズル的なミステリーとは2点異なる。
第一に本書は冒頭で「あるひとりの幼児の死をめぐる物語」と宣言しており(3ページ)、読者は別々の話が無関係でないことを予見しながら読み進めている。
第二に本書は中盤で収斂させ、後半では主人公に改めてパーツを一つ一つ当てはめさせている。このため、クライマックスで全てのパーツが収まるべきところに収まり全体像が明らかになるというよくあるパターンとは異なる。
本書の特徴は意外性以上に本書の取り上げたテーマの重さにある。当人達にとっては些細なものと感じるマナー違反の連鎖によって死亡事故は起きた。登場人物達が下らないエゴに基づいて行動しなければ幼児が死ぬことがなかった。しかも自らの行為が死亡事故の遠因になったという事実を指摘された後も当事者達は保身と責任逃れに終始するばかりであった。加害の自覚さえないような人間達によって息子が殺されたとなれば遺族は浮かばれない。
人間は悲劇が起きると、誰か悪意を持った人間が悪意を実現するために行動した結果であると考えたくなる。悪人がいるならば、自分達とは違う向こう側の人間として心置きなく糾弾できるからである。しかし、現実社会の悲劇は明確な悪意があるのではなく、本書の登場人物のように加害の自覚さえないような人間達が身勝手な理屈でモラルに反する行為を積み重ねた結果であることが少なくない。
たとえば私は耐震強度偽装事件を想起する。耐震偽装事件が報道された当初は、鉄筋を抜いたマンションを建てることで暴利を上げる不動産業者や建築士、施工会社の悪意と建築確認検査機関・自治体・国土交通省・政治家を巻き込んだ陰謀があると考えられた。ところが、実態は不動産業者や建築士、施工会社、確認検査機関らの怠慢や無責任が複合した結果であった。そして彼らは皆、本書の登場人物と同じく保身と責任逃れに終始する小物ばかりで、耐震強度偽装物件の購入者の損害を回復しようとはしなかった。
この点において本書は紛れもなく社会派作品である。本書の登場人物は傲慢、見栄、責任回避、無気力など人間の詰まらない部分が極端に肥大化し、紋切り型に描かれているきらいがある。この点では社会派と呼ぶには皮相的である。しかし、強烈な悪意がなくても下らないエゴから生じた行動が大きな悲劇を生むという社会の真実を突いている点に本書の社会性がある。
本書はやるせない気持ちにさせられる作品であるが、そこに救いがあるとすれば主人公の口を通して真相を加害者達に認識させていることである。身勝手なエゴが思いもよらない悲劇の原因となることは往々にしてあるとしても、加害者はおろか被害者さえも因果関係を認識せずに終わってしまうケースが少なくない。
これに対し、本書の加害者達は謝罪を拒否し、主人公を失望させたが、それでも事実を知ったことにより、彼らの人生は従前とは異なるものとなった。主人公が期待するレベルには到底及ばないとしても、幼児の死に対して一定の責任を分担する結果となった。理不尽な悲劇に見舞われた被害者にとって泣き寝入りでもリセットでもなく、真相の究明が慰謝になることを本書から実感した。
崩れる 結婚にまつわる八つの風景 (角川文庫)
何気なく毎日生活している中で、何処かの誰かが、・・・もしかしたら自分が抱いているような「感情」。決して特別なんかじゃないけれども、「○○だったらいいのになぁ」といったマイナス感情が実際に起こってしまったら、本当に怖いですよね。
本書は結婚にまつわる話だけあって、既婚者には(?)背筋がゾッとするようなスリルが味わえると思いますよ。(そばにいる主人には見られないように書いています・・・)
空白の叫び〈下〉 (文春文庫)
主人公の三人が集結し、再び罪を犯す。
が、なぜこの犯罪でなくてはならなかったのか。どうしても違和感がある。
そのストーリーを構築する上で、突然増える登場人物。
やはり、やや無理があったのではないか、という印象が残った。
ただ全体としては長編にふさわしい全体構成だったと思う。
少年犯罪をベースにこれだけ長いストーリーを構築し、読ませる筆力は改めて高く評価したいと思う。