第22作 男はつらいよ 噂の寅次郎 HDリマスター版 [DVD]
この映画で印象深い二人の俳優。
まず大原麗子の出演。彼女は役柄は違うが、シリーズを通じて二度マドンナを演じた数少ない女優。それだけ魅力があり人気もあった。確かにあの独特の儚げな色気は彼女でなければ出せない。
彼女の演じる早苗、シリーズの中でもユニークなマドンナだと思う。悩みながらも自らの意志で離婚に踏み切る…儚げに見えるが芯は強い女性なのかも知れない。寅さんに慰められ、元気をも取り戻す。このパターンは第4作の栗原小巻に似ているかも知れないが、どことなく意志の強さのようなものを感じる。
次いで志村喬(博の父親・諏訪'一郎役)の三度目にして最後の出演だということ。第1作、第8作(寅次郎恋歌)と、出演するたびに名優の底力をいかんなく発揮、寅さんの良き理解者として、ストーリー上でも存在感を見せた。
今回も素晴らしい演技。木曽でのバス車中の再会のシーン。大人ぶりが見ている側も穏やかな気持ちに誘う。そして寅屋の登場シーン。世界の黒澤映画の名優の接客シーンという、考えてみれば凄いシーンだが、これもとても自然でユーモラス。実は志村さん、若い頃に出演した「鴛鴦歌合戦」等でもわかるように、コミカルな演技も十分できる俳優だったと思う。
青い花 1巻 (F×COMICS)
淡々とした展開と、シンプルな線でいきいきとした性格を持った人物を効果的に表現することで人気を集める志村貴子さんの最新作です。
前作『どうにかなる日々』とはガラリと雰囲気の変わった漫画で、高校一年生となって数年ぶりに再開した二人の幼なじみ、「万城目ふみ」と「奥平あきら」を主人公として物語は進行します(どちらかと言えば、よりふみの方が主人公らしいですが)。志村さんが『放浪息子』や『敷居の住人』などの漫画で培った「まだ大人になりきれない、時に性に戸惑わされる少年と少女」や、学校などでの「なんてことない風景」への洞察心と、その独特の描き方を存分に生かしており、本作はどこまでも綺麗で、けれどもたまにズキッと心の痛みを感じさせるものとなっています。
思春期というのは楽しいばかりではけっしてけっしてないけれど、やはり何物にも変えがたい日々なのです。ヘッセの『春の嵐』の中で、こういった意味の言葉がありました。志村さんが彼の『春の嵐』『青春は美わし』といった題を引用しているのも偶然ではないのでしょう。他のものに関しても元ネタを調べて、読んでみるのもひとつの愉しみだと思います。
主要キャラはみな女の子なのですが、安易な萌え漫画でも百合でもなく、安心して人に薦められます。通う学校の違う二人の生活風景、心境を、うまく交錯させ、「この気持ちわかるわ〜」と読者に言わせつつもすぐ次の展開を淡々と用意する。こういう漫画を描く上で、志村さんの右に出るものはいないでしょう。それぞれの学校での美しい生活風景、ふみとあきらの二人の過去の情景、これまでに何があったのかを考えさせずにはいられない『深い』登場人物、味わえるものはたくさんあります。
有名な少年誌の漫画などしか読まない人にはちょっと読みにくいかもしれませんが、いったん慣れた人や漫画を愛好する人には、志村さんがあとがきで言う「なんとなくステキ」といった感覚がわかると思います。バラのような派手な美しさはありませんが、野原にひっそりと青く咲く、りんどうのような作品です。