小説十八史略(五) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
隋の煬帝の死後、大唐帝国がはじまり太宗や武則天、玄宗皇帝と楊貴妃らが活躍する中國史上でも最も華麗な時代を扱った名著です。著者の筆致も心なしか冴えているように感じられます。『旧唐書』や『新唐書』などを原文で読むのが難しいという若い世代の人々にオススメします。
けれど、あくまでも小説家が書き下ろした読本としての文章なので、出来ることならば、漢籍の「正史」ないし『十八史略』を繙いてみて頂きたいとは存じますれど...。
小説十八史略(一) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
私は中国史の体系を、学校以外では、歴史家のマクロの視点では講談社現代新書の「新書東洋史・中国の歴史」シリーズ、そしてヒーロー・ヒロインたちの個々の言動はこの「小説十八史略」シリーズで主として学んだ。本シリーズは南宋滅亡までであるが、小説仕立ての生き生きとした語り口で中国史の主なエピソードを網羅しており、あまりの面白さに読み出したら止まらなくなること請け合いである。この第一巻は殷周革命から秦の始皇帝による中国統一及びその政治までを扱っているが、冒頭で、これから展開される中国史の様々なテーマを包含・暗示するものとして、神話を紹介している。さらに、別の章で、天道は是か非か、という史記を貫く大きなテーマを紹介している。これは本シリーズのテーマにも重なるといっていいだろう。善人・悪人が次々と登場して、中国史はまさに全人類史の実験場という感を強く持つ。だからこそ、中国史は現代の我々にとっても汲めど尽きない知恵と教訓の泉であり続けるのだろう。中国の特に古代史のファンとしては、この第一巻は2倍ぐらいの分量があってもいいのではないかと思うが、足りないと思う人は、例えば同じ作者による「中国の歴史(一)」、安能務氏の「春秋戦国誌」、宮城谷昌光氏の数多の小説等で補えばよいと思う。始皇帝(秦王政)の登場あたりからは、私には特に記載不足に感じられる点はありません。後はこの大河小説に安心して身を委ねることができるでしょう。なお、本シリーズの各巻はその時代の女性の服装をカバー絵に採用しており、中国女性の服装の変遷を知ることができる面白さがあります。
実録アヘン戦争 (中公文庫)
ワタクシ、アヘン戦争について特に詳しいわけでも、格別の関心を抱いていたわけでもなく、高校時代に習ったきりです(それさえ、よく覚えていない)。ただフッと、「アヘン戦争って、どんな戦争だったんだろう…」という疑念がわいて本書を手に取っただけの人間です。ですから1971年に単行本刊行された本書が、現在の研究水準から見てどう評価されるべきかについては、全く無知です。
と、言い訳した上で感想を述べれば、読みやすく、私が求める程度の知識を十分に与えてくれました(むしろ詳しすぎないところが良い)。以前から疑問だった、清が海禁政策と対外交易をどう両立させていたのかについても、イメージを得ることができました。英国にとってアヘンによる収益は、ベンガル政庁を支えるのに不可欠だったという指摘(p235)も興味深かったですし、林則徐が更迭後、太平天国の乱で再び欽差大臣に任命され、しかし赴任途上で没したなんて話も初めて知りました。不謹慎な言い方ですが、中国史のドラマを楽しみつつ勉強できました。
ただ細かいことながら、学海堂という由緒ある学校の学長・教授連が貿易商たちに籠絡されてアヘン弛禁論を唱えたのではと推測する件り(p103)で、これを「産学協同」と呼んでいるのには、ちょっと笑いました。「曲学阿世」の方がまだいいのでは? と身の程知らずにも思うのですが…もっと良い言葉があるかもしれません。
ちなみに終章の後に付された「それからの林則徐」は、元は1980年に単独で発表された文章で、やや著者の肩の力が抜けている印象。当時の世相に言及する部分が散見されて時代を感じさせましたが、これはこれで味わいでした。
中国の歴史 近・現代篇(一) (講談社文庫)
歴史の熱心な調査、研究に異議を挟むものはいないと思う。そしてそれに基づいた人物描写にも。物語は日清戦争前夜、孫文と康有為の上書から始まり、台湾の割譲の際の物語、改革と政争、ヨーロッパの侵略とそこにある軋轢。そして清帝国に住む者たちの苦悩と閉塞感、危機感。そんな中孫文は革命を志し、世界中を飛び回り革命派が組織されていく。いくつかの蜂起とそれぞれの挫折。物語は揺らぎなく進んでいく。こういう時代だからどの筆者が書いたものでも読み応えがあるが先生の筆ならなおさらではないだろうか?
小説十八史略(六) (講談社文庫―中国歴史シリーズ)
最近になってようやく「隋唐演義」や「楊家将」「岳飛伝」などの小説で
知名度の上がりつつある唐末〜南宋末時代を分かりやすく描いてます。
史実を下敷きにしてるとはいえ、ここまでの長編なら息切れしそうなものですが、
そんな事は一切なく。原典の「十八史略」が書かれる要因になった南宋の忠臣・文天祥の
最後の奮戦と、愚直なまでの忠義を詠った正気の歌。
そして彼の処刑によって小説の幕が下りる辺りは感無量でした。
中国史もののバイブルといえるこの小説は、このジャンルに興味を持った方に
自信を持って勧められます。
願わくば作者にはその先の、元、明、清王朝の興亡も描いて欲しかったですが。