漂流 (新潮文庫)
サバイバルものの番組や本、マンガ等見るのが好きなんですがこの本めちゃくちゃ面白かったです。
まず冒頭に作者が有名な日本の無人島話を二つほど紹介。戦後数年たってからの事件でサイパンのアナタハン島で32人が生きてた話(この話を元にした小説&映画が「東京島」)とグアムで発見された横井さんの話。
この時点ですでにひきこまれます。
ではもっと昔、江戸時代に船で漂流した例はないのかと作者が興味を持って資料を調べまわりそれをもとに小説として書き起こした本編が始まります。すばらしいイントロ。
超簡単に説明すると船が難破して絶海の孤島(伊豆諸島の鳥島という火山島)に漂着した長平という男の島でのサバイバルストーリー。
最初4人いたけど1年たったら死んで一人に。何より一人の孤独がつらく途中自殺を考えたりおかしくなりかけたりする。
サバイバルするうえで厳しかったのは「火」をおこせないこと。なんせ着の身着のままで漂着したので包丁とかの切る道具もない素手でのサバイバルは本当に大変。
食べ物はその島に群生するアホウ鳥を殺して生で食う、これが主食。後はその卵や貝、魚をとったり。そして水源がないその島では雨水を卵の殻(結構大きい)にためて飲むしかない。さいわい降水量の多い島だった。
アホウドリが島から離れる時期があってそれまでに干し肉にして保存しておいたものを食べてすごす。
とにかく何でも工夫して生き延びていく姿に感銘を受けます。
島の周りには船が通ることは一切ないけど漂流ルートになってるらしく同じように難破して流れ着いた人たちが合流して最終的に15,6人になる。(やっぱり生き延びる意志の弱い人間は亡くなっていった。弱気が一番の敵)
合流したグループが火をおこす道具を持っててそこからは肉や卵を焼いたりできるようになり調理法がレベルアップ!
そして救出を求むべくいろいろ手を尽くしたがすべてうまくいかず「船」をつくることを決意するもなんせ島には木材や釘とかが一切ない・・・そんな状況に何度も絶望しながら国へ帰りたい一心であらゆる手を尽くす16人。最初に漂着した長平は12年、37歳になっていた。
果たして彼らは船を完成できるのかそして生きて島から脱出できるのか・・・
何もない状況でも生きる意志と工夫さえあれば生きられるんだな。すごいわ。超名作!
この作品映画化されてるみたいだけどものすご見たい!
魚影の群れ [DVD]
緒方拳、夏目雅子、佐藤浩一という演技力ある俳優達がぶつかり合い、映画の本質を見せられるような素晴らしい作品です。
各々が演技を超え人物になりきっている様は見るものを圧倒させる力があり、心が騒ぐというか映像の中に自分が飲み込まれていくような気持ちになりました。とても満足できる逸品です。
羆嵐 (新潮文庫)
わたしは、この作者の作品の多くはハードボイルド小説と考えている。素材をできる限り活かし、主人公の心理描写を極力抑えた乾いた文体で読者に訴える。またルポルタージュ的な面も強く克明にデータが書き込まれている。そのため一般的な小説としては抑揚がなく、読みづらいと思う作品も少なくはない(例えば『桜田門外の変』)。ただしこの作品はそのような作者の特色が極めて成功した代表作の一つであることは間違いない。なにせ素材自体が下手な小説を超えてしまっている。しかしその素材はあまりにも重く、扱い方が難しい。
ストーリー全体を貫くなんとも言えない恐怖感も魅力の一つであるが、読みどころはやはり中半以降、熊撃ちのプロフェッショナルでありながら、村人に忌み嫌われている絶対的アウトロー、銀四朗が登場してからのストーリー展開である。その登場シーンはまるで映画を見ているように情景が浮かぶ。正直、このあまりに魅力的な主人公の一人に思いっきり感情移入してしまった。銀四朗はこう言う。「おれはクマを追うときは夜明けから日没まで山の中を歩き続ける。クマの足は早いが、それに追いつくためにはクマより早く歩かねばならぬ。」まさしく銀四朗は大正時代のゴルゴ13である。
またタイトルついても著者は相当考えた節がうかがえる。読了前にタイトルに感じたその荒々しいイメージが、読了後はなんとも寂しく、一種の悲しさを誘う仕掛けがしてあるところも作者の技量を感じさせ、本好きをうならせる。
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相米監督と言えば、厳しいが若手俳優を育て上げることでは右に出る者がいなかった。本作は相米組のフィルモグラフィーでも「異色」であり、安定感のある俳優が下北半島&増毛を舞台に、まぐろ一本釣り漁に命を賭ける名作である。いま観返してみると、思いのほか「天国へ旅立った」関係者が多いことに気付く。相米監督を筆頭に、緒形拳も夏目雅子も三遊亭円楽もレオナルド熊も下川辰平も今はいない。1950年代の作品ならばいざ知らず、本作は1983年の製作だ。あまりに早世が多いなあ・・・。まあ佐藤浩市も撮影の長沼六男もバリバリ働いているので、天国から応援されているのかも知れないね。北海道・増毛駅前にある富田屋旅館はあまりに風情があるため、わざわざ見に行ってしまったぞ(笑)。ちなみにその際映り込む角の木造建築は、高倉健の「駅」で風待食堂として使用されたところだ。増毛は昭和にタイムトリップしたかのような感覚があちこちに残っており、札幌からだと少し距離があるが、映画好きな方には訪問をお勧めします。本作で凄いのは緒形拳と佐藤浩市が漁船に乗る場面だ。今なら東宝スタジオあたりでVFXで撮ってしまいそうだが、本当に揺れる船での撮影は大変だったろうと思う。佐藤浩市がケガをする場面などは本当に心地悪かった。この二人は続いてP・シュレイダーの大問題作「MISHIMA」でも共演(スクリーン上での共演はなかったが)を果たしている。それと夏目雅子。本当に可憐だったなあ。ああいう「気品があって庶民的」な女優は多分、もう出てこないのでは。特典映像では現在の下北半島ロケ地を巡っている。星は4つです。