涙のパヴァーヌ ~リコーダー名曲集
恋のうぐいす
こんな音楽を生み出した時代があつたなんて。懐古趣味とか揶揄されても、この演奏を聴いて、在りし日に憧れられずにゐられませうか?ブリュッヘンという人の音楽性と思想への信頼は、私の場合此処に始まりました。
バッハ:無伴奏チェロ組曲(全6曲)
アンナー・ビルスマのバッハ解釈が全開だ。テンポの処理が柔軟で、しょっぱなからハラワタをえぐるように沁み込んでくる。
カザルスのように単線的ではなく、ロストロポーヴィチやヨー・ヨー・マのように明快でもなく、うっそうとした森の中に分け入る感じだ。ときどきビチッと枝が顔に当たるけど、それでも奥に踏み込まずにはいられない、蠱惑的なバッハだ。多声的な構造がよく見える立体的な演奏と言ってもいい。バッハが表現したかったのはこういう音だったのだと納得させられる、有無を言わさぬ説得力がある。
魂にめり込むような、ずっしりとした内省的な演奏で、深い思索に誘われる。誘われてもアタマ空っぽだからなんにも出てこないけど。名器ストラディヴァリウス「セルヴェ」(1701年製作)が使われているが、この渋茶のような音がまたたまらない。
この深い味を知っちゃうと、もう他の無伴奏チェロ組曲は聴けなくなる。聴けなくなったもん、ほんとに。
バッハ/ブランデンブルク協奏曲<全曲>
瑞々しい、明晰な、幸福なブランデンブルグ。
超メジャーな第3番は、わきあがる弦の官能的な響きが、どきどきするほど美しい。
第5番のレオンハルトのチェンバロの精緻さと気高さたるや、ほとんど神の御手。チェンバロがすべてを統べ調和させている。
この中欧的なぬくもりは、フェルメールの画みたいだなぁと感じます。
アンナー・ビルスマの世界
アンナービルスマの叙情あふれる演奏です。
ただし、音質は決して良いとは言えないので、デジタルリマスターの作成を強く希望します。
しかしながら、演奏のすばらしさはやはり捨てがたく、聞く価値があります。
バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)
本来、組曲は舞曲、踊るための曲だったわけで、それを全く失念しているのがいわゆる朗々系の、
思い入れたっぷり、リズム感のない演奏でした。
(5番前奏曲を例にとると、これはフランス風序曲の様式なのだから、付点拍子のリズムを生かすべきなのに、リズムが死んでる演奏が多い。)
ビルスマ盤はリズム感と、バロック的「語る」様式を重視した演奏で、聴いていてとても楽しいです。
今まで無伴奏チェロ組曲は退屈な曲だと思っていた人には、断然お勧めです。
一方、重厚な演奏が好きな人には物足りないかもしれないので、他の盤と聴き比べてみることをおすすめします。
この曲を子守唄にして寝ている人にも、眠くならないのであまり勧められません(笑)。
録音は1979年で、やや古いですが、音質上、気になることはないです。
なお、この演奏が10数年前にあまり話題にならなかったのは、そのころ本作を含む、
多くの古楽系名演奏が収録されていた「SEON」レーベルが廃盤になり、入手が困難だったためという理由もあります。
その後ソニーより再発売されたため、入手が容易になりました。
当時から評価している評論家は多数いました。