フェイヴァリット・ワースト・ナイトメアー
ここのページを見られる方にこのバンドがどういうバンドが説明する必要はもはやないぐらいに1stがバカ売れしたアークティック・モンキーズ。
さて、比較的に短いスパンで制作されたセカンド・アルバムだが、未だに賛否両論が多い。
1stに比べるとメロが弱くシングルになるような曲が少ない。
ガレージロックにへヴィなドラムやグライム特有のサウンドテクスチャーを持ち込んだことで音が分裂してる。
単純に曲が練れていない。というのが大方の意見のようだ。
そして、そうした指摘は決して間違ってはいない。
彼らは意図的に1stと同じことするのを避けた印象がある。
つまり、安住から抜け出し、あえて批判を覚悟でこのセカンドへと踏み込んだのである。
今回のテーマはドラムとグライム、そしてシンフォニック・ロックだったらしくそうした試みは前者ではブライアンストームで、後者では505で聞かれる。
この2曲のこのアルバムの中でも白眉であり、こうした楽曲が作れるだけでもやはり優れたバンドだなと思える。
決して前作の繰り返しにならず、新たな領域に踏み込んでいる。
確かに、ここには1STの無敵感というか、時代を切り開く高揚感は感じられない。
しかし、若いロックバンドが試行錯誤を繰り返しながら前を着実に進む姿が見て取れる。
スタジアム・ロック(いわゆるオアシスやコールドプレイ)のようなものではなく、自分たちなりに新たなロックを作ろうとしているのだ。
新時代のリーダーは多くの喧騒に巻き込まれながらも、醒めた視点を持ちながら着実に進んでいる。
Humbug
1stから2ndの進化(深化)にも驚いたが、今作はそれ以上。
前作から太く強くなったボトムは変わらずだが、
これまで極力ひかえてきたオーバーダブを惜しげもなく使って曲に広がりを持たせている。
アレックスは、持ち前である前につんのめった様な性急なヴォーカルを封印しつつ、
いい具合に力の抜けた伸びやかなヴォーカルを聴かせるが、
強靭なボトムのおかげで甘っちょろい流行唄には聞こえない。
1stの「〜ダンスフロアー」や「サン〜」、2ndの「ブライアン〜」のような、
一撃必殺のキラーチューンは不在で、どちらかというと暗い雰囲気の楽曲が並ぶ。
聴きどころは・・・
これまでとは違うぞ!と静かに告げる「1. マイ・プロペラ」
リードトラックで、ポップさを排除したドラマティックさをもった「2. クライング・ライトニング」
彼ららしいビートがうねり、アレックスのヴォーカルが冴える「3. デンジャラス・アニマルズ」
緩急自在の名曲「4. シークレット・ドアー」
「7. コーナーストーン」は得意のロマンティック路線回帰。
性急なビートがデビュー作を思わせるが、急なテンポチェンジからの変化球を見せる
「9. プリティー・ヴィジターズ」
そして荘厳な雰囲気すら醸し出す最終曲「10. ザ・ジュエラーズ・ハンズ」
1stのような分かりやすいブリティッシュロックを求めている人には向かない今作。
1st好きな人には2ndに続いての裏切りになるかもしれないが、
一時の流行バンドになり下がることを良しとせず、あくまで挑戦したスタンスには拍手。
録音方法だけでなく、さまざまなビートの導入やギターリフの組み立て方、
音の間の音など、余裕すら感じさせる遊び心にも感動。
聴けば聴くほど新しい発見がある良作だと思う。
これでますます彼らのその先が読めなくなった。
ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット
3年経って聞き返してみると、やっぱりいまだ訴求力はある作品だと思う。
過去の偉大な先輩たちの焼き直しだろ、なんて言ってる人間もいるが、さすがにどう聞いてもそうは聞こえない。安易すぎる。
彼らが定義した音楽性とは、ヒップホップ的な散弾のようなリリックを、いわゆるジャム的なガレージロックに乗せるというもので、それはウェラーやタウンゼントといった老い先短いレジェンド達の音楽性とは全く違う。
このスタイルでやっていくにはメロのポップセンスに加えて、作るリフの面白さ、そして歌詞を書く力量も必要。リバティーンズと違ってアークティックに有力な直結した後継が出なかったのは、アレックスはやっぱり稀有な才能を持っていたからに他ならない。音楽いっぱい聞いてるし、かなり頭がいい人間だと思う。
捨て曲が一切ない楽しいアルバムだが、やはりシングルカットとマーディ・バムだけは抜きんでている。
安易にヴァースコーラスな曲は少ないのに、全体としてキッズに十分分かるぐらいキャッチーなのが凄い。
3rdはそろそろ出るそうだが、不安なのはもう彼らは明るい作品を作らないんじゃないかなぁということ。
2ndがサバスやストライプスを振りかけた感じでヘヴィだった。3rdもややメロっぽくもその延長のようなので、もしかしたらメンバーがやりたいのはそっちのほうなのかもしれない。(ラストシャドウでメジャー調の曲は書いていたので、決してアレックスがそういうのを書けなくなったわけではなさそうだが・・・)