死海文書の封印を解く―二千年の眠りから覚めたユダヤ・キリスト教の驚くべき真実 (KAWADE夢新書)
死海文書というのをご存知でしょうか?ぶんしょと呼ばずにもんじょと呼びます。1947年に死海近辺で見つかった古文書で、2000年ほど前に書かれ、キリスト教の誕生にまつわる記述がしたためられていたことから、歴史的な発見と言われたのですが、何故か、内容がなかなか公にされてきませんでした。この本は、このあたりの経緯、なぜ公開が遅れたのか?誰が遅らせたのか?現在、どういう研究がされているのか?という疑問を分かりやすく整理したものです。はじめて、死海文書というものについて調べようとする人にはとても役立つように思います。しかしながら、”死海文書”という歴史的な謎に興味を抱く人にとっては、ほんの僅かな情報量でしかないでしょう。目的に合わせて選ぶべきかと思います。
イエスのミステリー―死海文書で謎を解く
当方、高尾先生の講義を受講しておりましたが、先生は極めて善良で純粋な思想を持たれている、尊敬できる方です。多くの書籍からどうか深い意図を汲み取っていただきたいと思います。
解き明かされた死海文書
本著者ゲザ・ヴェルメシ[ゲザ・ヴェルメシュ](Geza Vermes)は「死海巻物を英語で書いた人(p.290)」として学術界で知られる最古参に位置する研究者。近々『The Complete Dead Sea Scrolls in English』という最新版の訳書も出版予定のようです。
その古老が一般読者向けに「娯楽的で有益な情報に富んだ記録(p.291)」として“死海文書の発見から最新の考察までを概説”するために書いたものが本書『解き明かされた死海文書』です。たしかに欧米メディア(BBC、タイムズ、等々)を騒がす「陰謀論」に言及する場面もあり学術的ではなく読後感は「歴史書研究のドキュメンタリー番組を観ているかのよう」な印象を受けます。
第1部では、死海文書を取り巻く国際情勢、初期の研究方法の不手際や問題点が語られておりヴェルメシ博士の個人的な見解が明らかにされています。この部分をざっと読むだけでも様々な問題が山積していた研究過程の歴史が概観できます。
第2部は、死海文書が何なのかを知りたい読者にとって最良の概説書となっています。今現在に至るまで様々な学者達が唱えた説(新奇な仮説)を列挙した上でそれらについて考察がされ明らかに誤った説には学術的な見地からみた批判が述べられています。最も一般的に興味があるイエスと義の教師についての考察では「クムラン巻物とキリスト教文書の同一視に真っ先に反証することが良識である。これらの写本にざっと目を通しただけで、(中略)クムランの巻物と新約聖書は基本的に別個のものであることが明らかだからである。クムランの人々は、なによりもまずモーセの律法を(中略)遵守することに重きを置いており、(中略)義の教師が帯びている祭司としての性格に関する(中略)情報は限られているとはいえ、(中略)福音書が描き出している、ガリラヤの治癒者や悪魔払いの祈祷師というイエス像とは符合しない。事実、クムランにはガリラヤと関連づけられるものは、いかなるものであれ、存在していない。そればかりか年代学から見ても難点がある。(中略)クムラン文書のうちキリスト教に関わりがあるとしてもっとも頻繁に典拠として挙げられているダマスコ文書とハバクク書註解は、ほとんどすべての専門家によってキリスト教以前の時代のものだと認められている。(p.269)」と述べています。
これから死海文書に興味を持って調べ物をしたいと考えている読者にとっては貴重な文献となるでしょう。
内容が素晴らしい本書には、ひとつだけ問題もあるので最後にその部分だけ書いておくと、「訳」が恐らく「直訳」であることです。英語特有の言葉を邦訳されるどうもシックリ来ない部分が散見されます。その最もな部分はこういったもの、「デュポン=ソメールはカトリック教会の鳩であるドゥ・ヴォーや彼の編集委員会の中に争い好きの猫を差し向けたのである。(p.79)」。「疑い深いトマス(doubting Thomas)」と同じような諺なのかはわかりませんが。
死海文書のすべて
ヴァンダカームの著書は、死海文書への手短な学門的でまじめな入門書だ。宗教的な主観やセンセーショナルな奇をてらうところはない。紀元前2−3世紀から後1世紀のユダヤ教の宗派や歴史がわかる。何故洞窟へ、荒野へ人々はきたのか。エッセネ派かどうか、義の教師とはだれだったのか。キリスト教徒と関係があるのかないのか、など論じられている。
どんな巻物が学ばれたのか、旧約聖書の成立過程との関係も。国土の地理的場所のせいか、ユダヤの人々が歴史に翻弄されて終末思想を持たざるをえなくなり、メシアを待望したことが痛いほどわかる。巻物群がなぜ今まで公正に内容が発表されなかったのか、も解説されている。
死海文書入門 (「知の再発見」双書)
第二次世界大戦後に死海のほとりの洞窟で発見された古い古い写本である死海文書は、この前のユダの福音書のようなセンセーショナルな物であった。
本書はその死海文書の発見にまつわるエピソードと、その文書が作られた時代の背景について詳しく解説している。
まず、世界大戦の余波とそれに続く不安定な中東情勢のあおりを受ける中での文書類の発見について紹介される。
ユダの福音書発見の時に似て、現地の人が発見をして、売買をしていくが、本物かどうか怪しまれたり、社会情勢のせいで移動もままらなかったり、
苦労も多かったようだ。以降の章ではキリスト教黎明期のユダヤ教や、その当時の政治情勢(ローマ帝国の支配や反乱など)を詳説。
また、発掘作業についても詳しく語られている。死海文書そのものについてや、文書の内容がキリスト教史やキリスト教理解に与えた影響についてよりも、
調査作業や時代背景に関する事柄にくわしい。知の再発見双書の常として、豊富なカラー写真や図版は見所である。
巻末には遺跡に言及した古代の文献や、発掘作業のリアルな様子などがまとめられている。