袋小路の男 (講談社文庫)
「袋小路の男」は、一人称視点で世界を描ききっている。感情の過剰も事実の欠落も含めて、「わたし」から見た世界を余すところなく描いている。「わたし」という不思議な女と小田切という不思議な男との摩訶不思議な関係に、納得してしまった。
約束事・タブー・距離を守って正しく続ける一風変わった男女関係。そこらにはない関係だからこそ、大切なものなのだ。よくある男女関係になだれ込むには惜しいのだ。どちらも多分、それがわかっている。だからどちらかが一歩踏み込むと、どちらかが一歩引くのだ。
「小田切孝の言い分」では、同じことを二人視点にして客観化している。これも面白い。「袋小路の男」で、たぶん自分に都合の良い記憶だけをつなげているのでは…などと読者として裏を読んでいたことが書かれているが、その分普通である。
文体としては「袋小路…」の方がずっとずっとカナシイ。
「アーリオ オーリオ」もいい。この作家は自立した孤独を美しく描く。それが星の世界の静けさとあいまって、つきぬけるような静けさを感じる。
好きだなあ、この文体。他の本も読もうっと。
妻の超然
唸りたくなるほど上手い。ポジティブな不毛などなど、読みながら小躍りしたくなるような言葉も、幾つもあり、飲みながら読んだりしたら、上等なつまみになりそうな三篇である。最後に、超然とは手をこまねいてすべてを見逃すことなのだとあり。世の中をあきらめ、自分をあきらめ、なおかつ、秘かに悶える人間へのいとおしさを言葉に置き換え、体当たりで表現していくプロ根性に、ファンは多いに違いない。
crystal (完全限定盤)
本当に優しい歌声。
前向きに、強く、そして切なく歌い上げる事ができる素晴らしい歌姫だと思います。
昔から名曲が多いのに、いつの間にかひっそりと消えてしまったshela。
久々の復活に感動しました。
ちなみにSTARTは名曲です!
イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)
色んな人物が登場する。
主人公を含め、みな性癖がある。闇もある。
でも、この作品では、闇としては描かれてない。
暗く描こうと思えば、どこまでも描ける題材だ。
かわりに、何かあたたかい物が作品を包む。
読み終わると、なぜか、ほっとした。
不愉快な本の続編
とある男が田舎である呉から東京に出てきて定職に就かないで生活している場面を本人が振り返りながら語りかける口調での1人称ものです。例によって絲山作品の主人公であるのでノーマルに見えて実は、という部分もあるのですが、その語り口の滑らかさも加わって一気に読めます。
タイトルにある「不愉快な本」が何を指すのか?というのが疑問なんですが、物語の最後に参考文献として載っている中から推察するとやはりカミュの「異邦人」ということになるのでしょう。
その関連がどの程度なのかが分からないのですが、それでも充分楽しめる、読ませるチカラのある文章でした。特に面白かったのは、主人公乾とユミコが交わす会話の中に出てくる差別にかかわる性差の話しから共感の話しに流れていくことのリアルさは非常に上手いと思いましたし、納得してしまいました。
また、ファンタジー(性的なものを含む)に関連する可能性を潰してゆく話しについても頷ける表現でした。この方の直接描写をしないけれどあるキャラクターの会話や考えの中で説明するやり方で、ただ文字にするだけよりも数倍説得力がある、という腑に落ち方は毎回びっくりさせられますし、上手いと思います。
そして結末がいつもの絲山作品よりひとひねりしていると個人的には思います。そのことで、よく言えばいつもの絲山作品の面白さであり、悪く言うとマンネリに感じやすいとも言われる部分を変える要素で個人的には良かったと思ってます。『隠されていたわけでもないけれど後から明かされることの驚きの新鮮さ』はこの方でしか読めないものではないか?と思います。誰しもがびっくりするような大どんでん返しや価値観の崩れのような大きなものではない、しかし『だとすると、ああ!』みたいな小さな驚きが心地よいです。
カミュの「異邦人」が好きな方、絲山作品が好きな方にオススメ致します。