大逆事件――死と生の群像
大逆事件の受刑者26名の、その後を追ったルポタージ
ュです。わたしも著者がいうように、幸徳秋水や管野須
賀子な宮下太一などのことは知っていても、他の人達の
ことの多くは知りませんでした。死刑12名とそして獄死
者、無事に出獄してからも周囲からの冷たい視線と、彼
や彼女らを待っていた過酷な運命が克明に記されていま
す。中でも、岡山の森近運平の遺族が辿ったの道のはか
なさには、胸が塞がれる思いがしました。
それだけに、無実を晴らすための復権運動の記録には
一層興味を引かれました。坂本清馬の再審請求が棄却
(このときの最高裁長官が、国際派で知られた横田喜三
郎というのにはやりきれぬ思いがしました。)された後の
弁護士森長英三郎の「これからは市民的な復権をやって
いったらどうか」という言葉には、何にも代えがたい重み
があると思いました。
著者は本書で、度々現在の冤罪との連続性を指摘して
いました。ここには、現在まで続く国家権力と市民という
永遠の対抗関係の原型が刻まれていると思いました。
<付記>『世界』2011.3での著者との対談(「大逆事件
100年」)で、山泉進さんは布施辰治を例に、人・市民と
しての権利をセンスとして磨くのに大逆事件は絶好の「鉱
脈」としています。含蓄のある言葉だと思いました。
(2011/03)