花と龍〈下〉 (岩波現代文庫)
上下巻を読了した。わくわくするような面白さで、一ページたりとも退屈させられることがなかった。
私も炭鉱町で育ったので、特に石炭に関わる情景には懐かしい思いがこみ上げて来た。
戦後ではあるが、私たちの町にも似たような働く男たちがいて、そしておそらく、規模は小さいながらも、似たような「喧嘩」もあっただろう。
それにしても、当時の男たち、女たちは、なんと生き生きと時代と立ち向かっていたことか。
すべてを時間が流し去って、今は私の故郷にその面影は残っていない。それは作品の舞台である若松でもそうかもしれない。
この作品は、かつて争いながらも真っ黒になって働いた男たちの記念碑でもある。
作者は読者を愉しませる精神に富んでいた。そして、その才能も十分に持っていたのだ。一級品のロマンを堪能した。
糞尿譚・河童曼陀羅(抄) (講談社文芸文庫)
火野葦平のベストセラー小説「花と龍」は葦平の父親である玉井組の親分が主人公になっているが、
その玉井組には親分を慕って色々な人達が出入りしていた。
「糞尿譚」のモデルになった人物もその中にいたらしい。
主人公が「大将」と呼ぶ支援者、赤瀬氏は
葦平の父親がモデルになっているのは言うまでもない。
温泉で赤瀬が対立する有力者と一緒になる場面は「花と龍」でも
ほとんど同様に描かれており興味深い。
糞尿汲取り業という社会の底辺にいる弱者が
地元有力者や役人たちの思惑が複雑にからむ社会構造の中で、
もがき翻弄される構図は、社会全体の縮図の様でもある。
主人公が柄杓で糞尿を撒き散らすラストのシーンは、
主人公にとっての精一杯の反乱なのだが、
不思議に痛快な気分にさせてくれる。
「河童曼陀羅」の方は、河童の短編が43篇収録された豪華本の中から、
12篇を著者自身が自選したもの。
花と龍 [DVD]
前年の「人生劇場」とほぼ同じ役者なので、なんとなく「人生劇場」の延長で観ることができる映画です。
主題歌は同じく美空ひばりさんの「花と龍」。
物語は、原作の前半を、省略した形です。この件については加藤監督が、原作者が描きたかったのは、「後半部分」という判断が働いたようです。これには異存なし。全編ですとかなり長い映画になってしまうからです。
さて、演出は、この監督の特徴の「別どり」なしの「オールシンクロ」ゆえ、やたら聞きにくいせりふもありますが、役者の演技の迫力は出ております。このことが、映画に躍動感をもたらせていると共に一気に、物語より、大体こんな男と女がいたんだよ、という大まかな提示で観客を惹き付ける勢いを生み出すことに成功しております。
実際、物語は大体、おおまかに追っていればいいのです。その時折に出てくる「義理」の深い思いやりと正直さに触れれば良いと思うのです。そのことに関しては本当に良いせりふ、良いシーンが散りばめられております。まあ確かに、迫力はあってもせりふは聞き取りにくい、ドラマツルギーが飛躍的とか言う突っ込みはできると思います。しかし、そんなことより、登場人物の優しさ、正直さ、純粋さなどに触れる映画だと思います。そういう「魂」の映画でしょうか。「無法松の一生」といい、小倉、若松周辺には何でこんな気風の良い粋な人たちがいたのでしょうか。そういう「恩」を忘れない人間を観ることができると思います。そういう登場人物を描ききれているからこそ、満点だと思います。
商品として、「解説」の冊子がついております。特典映像は、予告編のみ。(人生劇場、の予告編も入っております)
緋牡丹博徒 二代目襲名 [DVD]
全体的な作りとしてはオーソドックスにきちっと作ってある印象で、飛び抜けた所もないが悪い所もない感じです
今回の特徴としては銃がわりと多めに出て来るところと最後がカチコミじゃなくて、河原の決闘なところでしょうか
オープニングからして馬車と馬で西部劇風なところからして、そういう西部劇とか渡り鳥風を微妙に狙っているのかもしれません
高倉健が銃片手にヤクザの組にのりこむところなんかもありますし・・・
まぁちゃんとドスも出てきますけどね
ストーリーは
岡蒸気を中心に据えて、それにまつわる利権と岡蒸気が通ることによって職を失う人たちとの確執との三つ巴で争いが起こる
そしてお竜さんがそれらを解決して無事矢野組二代目襲名して、矢野組が今後全ての鉄道工事利権を掌握する
という感じで
全作中、矢野組がしっかり出てくるという意味でわりと重要な回です
まぁ二代目になったのに最後は結局、旅立っちゃうんですけどね
(あれは人殺したからその地域にはいられないということなのでしょうか?)
そういえば今回、若山富三郎は珍しく出ていませんでした
そして珍しく嵐寛寿郎は暗殺されませんでした
花と龍〈上〉 (岩波現代文庫)
日本の港運業界の歴史を知る上でも貴重な小説である。
玉井金五郎とマン夫婦が荒々しい若松を舞台に力強く生きる躍動感がすばらしい。
命を賭けて仕事を取り権益を守りながら義理と人情に厚い昔気質の日本人を読取ることが出来る。
金銭欲に駆られた現代人が失ってしまった古き良き時代の日本人を知った。