日本敵討ち異相 (長谷川伸傑作選)
時代劇のパターンの全ては長谷川伸が書いてしまった。
だから、時代劇を書くものは皆一度長谷川伸に戻らねばならない。
そのもどるべきひとつが本書である。
長谷川伸(明治17年(1884年)3月15日 - 昭和38年(1963年)6月11日)
主な作品
『関の弥太っぺ 』1930
『鼠小僧唄祭 』 1933
『刺青判官 」 1933
『沓掛時次郎』1935
『瞼の母』 1936
『国定忠次 』1947
『切られ与三郎 』1948
『殴られた石松 』
『稲葉小僧』
『日本捕虜志 』
『まむしのお政』
『四条河原の荒木又右衛門 』
『一本刀土俵入り』
『日本敵討ち異相』
長谷川伸論―義理人情とはなにか (岩波現代文庫)
一宿一飯の恩義とはこう言うことで、これに美学を感じるのが長谷川伸の描く日本人である。
著者初『沓掛時次郎』から、長谷川伸の書いた台詞を引く。
時次郎が三蔵と出会い、決闘の名乗りをする。
時次郎「あっしは旅人(にん)でござんす。一宿一飯の恩があるので、怨みもつらみもねえおまえさんに敵対する
信州沓掛の時次郎という下らねえ者でござんす」
三蔵 「左様でござんすか。手前もしがない者でござんす。ご叮嚀なお言葉で、お心のうちは大抵みとりまするでござんす」
これだけの台詞で観るものに全てをわからせる凄さ。一宿一飯の恩のために時次郎と三蔵は命の遣り取りをするのである。
(初回生産限定) 傑作時代劇 長谷川伸シリーズ DVD-BOX
以前、東映さんのアンケートでこの作品のソフト化希望と書いたよううな記憶がある。そのおかげなのか、待望のソフト化。多分、この作品が好きな人はたくさんいると思うが、メジャーな作品に比べ影が薄いと思う。でも黄金期の時代劇が好きな人なら、この作品は楽しめるはず。(テレビ作品なので、映画に比べスケールが小さい部分もあるが、股旅ものなのでそれも違和感はないはず)
ただ、最近外国ドラマのソフトが格安値段で出ている時に、この価格はちょっと辛いかな。作品を未見の方も手に取りやすくするためにも、価格を頑張ってほしかった。
蛇足だが、この作品がu局で放送されたとき、1話と2話の間で、片岡千恵蔵氏が亡くなられた。(ちなみに2話に出演されている)ある意味個人的には、そんな思い出もある作品である。
関の彌太ッぺ [DVD]
わが家では、ちょっと落ち込んだ時には「元気を出すん
だ」、友人が少ないとこぼすと「淋しく生まれついちまっ
て」と、本作冒頭の科白が飛び交います。
脚本は成沢昌成とありますが、当時助監督だった鈴木
則文、中島貞夫、牧口雄二が徹底的に書き直してしまっ
たといいます。鈴木則文は以前、少年時代に海岸で遊ん
でいたときに不発弾が爆発し友人を一瞬にして失ったこ
とを、また中島貞夫は本土決戦に備え竹槍訓練に励んだ
ことを記していました。本作でみられる、生きるということ
への慈しみにはそういう彼らの体験が、少なからず映され
ていると思います。
これは牧口雄二が語っていたことですが、本作のシナ
リオが配布されたとき、スタッフ一同が「これはいい映画
ができる」と直感したといいます。ラストで主人公が、あた
かもこの世に別れを告げるかのように菅笠を放り投げます
が、これは主演の中村(萬屋)錦之助自身のアイデアだっ
たとも聞きました。本作が多くの人の心を動かす名作とな
ったのは、映画づくりにかける撮影所の人々の様々な思
いが、股旅映画という伝統的な漂泊のアウトローの物語
に、グッとまとまった結果なのだと思います。
わたしの不動のベストワン映画です。