ブルースエット
あの頃、僕は京都下鴨・洛北高校近くに下宿していた。ジャズには、全く興味が無く、当時、ラジオ、TVで流される音楽といえば、ジョーン・バエズを代表とするフォーク・ソングや、国内でブームとなっていたグループ・サウンズ(ピンキー&キラーズ、ブルー・コメッツ、etc)であった。
そんな時、いつも聞いていた近畿放送のラジオから「モダン・ジャズ界の黒い牽引車、ジョン・コルトレーンの初来日、京都公演○月○日)という案内が何度、何度も繰りかえされた。勿論、初めて聞く名前だったが、何故かインパクトがあり、今でもハッキリ憶えている。翌日の新聞に写真入りでそのコンサートの模様が出た。壮絶な演奏に、グッタリとシートにもたれ掛かった聴衆の姿が写し出されていました。一体、どんな演奏だったのだろう、と興味は湧いたが、即「モダン・ジャズ」に興味を持ったワケではない。だが、この時、僕と「モダン・ジャズ」の距離は確実に縮まっていた。
その年の暮れ、いつも行く銭湯で服を脱ぎかけた時、ジャズ番組だったのだろう、店のスピーカーから、ジャズが流れ始めた。指が止まったまま、一曲聴き終えた。
‘Five Spot After Dark / Curtis Fuller’の名は頭にインプットされた。それから、4ヶ月あと、あの‘しぁんくれーる’の扉を開いたのだ。 「ファイヴ・スポット・アフター・ダーク」、なんてイイ響きなんだろう。「名は体を現す」というが、正に名曲にして名演奏だ。この曲を聞く度に、あの銭湯を思い出す。おそらく、今は無いだろう。
その後、3年間、‘しゃんくれーる’に通ったが、不思議な事に本作がかかった記憶がない。レコード・リストには、勿論、載っているが、誰もリクエストしないのである。何度もリクエストを出そうとしたが、その都度、躊躇した。僕の思い過ごしかもしれないが、当時の‘しぁんくれーる’には、本作のような50年代のジャズを許さない?ようなシビアな雰囲気が充満しており、いつも新譜や尖がったジャズが巾を利かせていた。手前ミソだが鍛えられた。
カーティス・フラー Vol.3
何で「ブルースエット」じゃないのか?えぇっ!こっちでしょ当然、聴き較べるとね。まず自作曲五曲のクオリティが高くて棄て曲が無い!「クァントレール」だけが良い訳じゃないんだな、まあーあれは名曲!ブリッジに「パリの空の下で」使うとこなんか洒落てるよね。でもワタシ的には四曲目の「カーボン」が好き… てかジョージ・タッカーのアルコとフラーのデュオは良いよ、新しいよね!来るべき六十年代を予見したかの様な… 言い過ぎじゃないよね。最後に持ってきたフラー渾身のバラード「イッツ・トゥ・レイト・ナウ」が… って原曲を崩さずメロディーを心を込めて吹いてるだけ… 小細工一切無し!これが良いんだな。フラーのバラードプレイにはホントに泣けるよね、ソニー・クラークのピアノには相性良いらしく「ソニーズ・クリブ」の「降っても晴れても」も最高だよね、他のピアニストなんてプレステージ盤で名人レッド・ガーランドとやってる「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」くらいしか思い浮かばないもの。 でもワタシが思うにこの作品を名盤たらしめているのは実はジョージ・タッカーとルイス・ヘイズの作り出す強力なリズムなんですよね。だって前二作品は「寛ぎのセッション」とか言われてて… まあーそれは婉曲な表現てやつでハッキリ言えばリズムがダレてるよね(笑)フラーは勿論この作品に参加しているファーマーもソニー・クラークもどちらかと言えば放っとくとダレちゃう人なんだな(笑)一曲目から三曲目まではホントによくプッシュしてるね… アート・ファーマーはちょっと大変そうなんだがグルーブの良さに救われている感が有るねぇ… まあー、そこさえクリアすればフラーとファーマーの相性はまるでユニゾンが一つの楽器に聞こえるくらい抜群に良いす。