人生の一椀 小料理のどか屋 人情帖 (二見時代小説文庫)
最近、料理人が主人公の時代物が、数多く刊行されている気がする
流行っているのかな
本作は、脱藩した元武士の料理人が主人公
連作短編5本を収録
タイトルが示す通り
その人にとって、人生の一杯となる料理にまつわる話が描かれる
例えば、1話では人生の最後を迎えようとしている老人の為に
彼が子供の頃母親が作ってくれた蛤汁を再現しようと苦心します
また、お客さんの心をうつような料理の創作にも務めます
俳人でもある著者らしく
各話の終盤で俳句が詠まれる場面があり
話を盛り上げます
五色沼黄緑館藍紫館多重殺人 (講談社ノベルス)
この小器用な作家の長編ミステリーを読むのは初めて。一部に熱心なファンがいると聞く「バカミス」の現物を読むのも初めて(ご本人が本書をきちんと「バカミス」に分類しているから、これは蔑称でも何でもない)。一読、唖然とし、愕然とし、そして大笑いした。よくもまあ、こんな小説を思いつくもんだ。これが「作者が過剰に作品を支配する」ということか。しかし、それにしても。
福島は裏磐梯にたたずむ五色沼のほど近くに建てられた摩訶不思議な洋館、黄緑館+藍紫館。客人4人を招いてのお披露目の夜、洋館は雪に閉じ込められ、やがて得体の知れない物音のあと「第一の殺人」が起きて……。とはいえ、綾辻行人さんの館シリーズのような、いかにもミステリーっぽい雰囲気は窺えず、ところどころ不協和音のような表現が混ざり、そうこうするうちに叙述上・表現上の仕掛け(ナゾ)が明らかにされていく。仕掛けは四つ(数え方によっては五つ)あって、それぞれ呆れるやら感心するやら。非常に手間ヒマかかっているとしか言いようがなく、思い付いたこれら複数の仕掛けのために本書を書いたのでは、とも思えるほど。ともあれ、これ以上、中身に触れられないのが残念。
活字狂想曲 (幻冬舎文庫)
校正とは縁の深い職業なので、ジャケットで思わず購入。
内容は毒があるけど、うんうん全くその通り! っていうなんか
自分の代わりにはっきりと言ってくれてる気がしてしまう内容。
校正という仕事、印刷業界が垣間見られるエッセイだと思います。
読んですっきりしてしまう一冊。
結び豆腐 小料理のどか屋 人情帖3 (二見時代小説文庫)
シリーズ3作目
前作はいささか泣かせようといったような作品が多かった気がしたが、
本作は楽しい話もあった
表紙にも描かれていますが、マスコット的なキャラ・猫の「のどか」が登場します
また、のどか屋も遂に番付に載り、繁盛します
4本の短編が収録されています
幼少の頃の僅かな記憶をもとに思い出の一皿を探す話
主人が病に斃れ、潰れ掛けていた仕入先の豆腐屋を再興する話
手習いの見本に隠された暗号を解く話
亡くした息子を偲ぶ夫婦の話 がありました
サブエピソードとして、主人公が武士時代にまねいた因縁が蒸しかえってくる話もありました
小料理屋の料理人が主人公ですが、意外に殺陣のシーンも幾つかあります
三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)
「四神金赤館銀青館不可能殺人」、「紙の碑に泪を」につづき同氏の作品はこれで三作目になりますが、
本作「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」はそれらを上回り更には此岸へ行ってしまったような出来でした。
先ほど述べた2作でもそうでしたが、これらの作品では作者は伏線に病的なまでの拘りを見せていて、
読んでいるこちらが「引いて」しまうくらいのことをしでかしてきます。
普段夜中に徹夜で静かに読むことが多いのですが、作中の「とある趣向(文章構成の狂人的拘り)」にとうとうニヤリとするどころか笑えてきてしまいました。
今まで読んだ「バカミス」と括られるジャンルの本の中でもここまでのものは珍しいでしょう。
ただそのせいで敷居は非常に高くなってしまっているような気がして、あまり他の人にも読んでみて!と素直に薦められないのが正直なところです。
普通の本格ミステリを読み過ぎて目が疲れてきた方、そろそろキワモノにも手を出してみようかしらと思っている方などは、
是非「四神〜」「紙の碑〜」「三崎〜」を手に取っていただけたら、と思います!
予想以上に、と言っては怒られますが、予想を遙か凌駕して狂気の片鱗まで感じさせて貰えた怪作でした。