パンドラの匣 [DVD]
あっけらかんと呑気な雰囲気もある太宰の戦後学園キャラクター小説よりもグッとクールな感じの映画化作品。
原作は、完成度はさほど高くないけれど、馬鹿馬鹿しくキラキラした魅力の作品だけど、原作をかなり忠実に再現し、かつ『パビリオン山椒魚』の冨永監督と菊地成孔が独創的な味付けをして、簡単には言い難い、余韻が残る作品になってました。
よくもそんなところから集めたな、と思えるほどの多様な分野から集まった大胆なキャストが、本当にはまっている!
17歳に思えない主演・染谷の背伸びした大人ぶり、そして彼を取り囲む窪塚洋介のキラキラした目。仲里依紗のはじけっぷり(ゼブラクイーン前夜の最高の輝きを誇る)、映画初出演の川上未映子の堂々たる大阪女ぶり。そしてふかわりょうの使い方。
主題歌とモノローグのアンサンブル。最後の暗転の余韻。
いつの時代にもある青春のもやもやした時間の断片の中、“悶々”と“キラキラ”とが同居した、他にはない最高にエレガントな気分で映画館を後にできました。
うちにかえろう~Free Flowers~
少し前(と言っても約3年)に、NHKのCFに使われていた曲でした。 プロジェクトXにかぶせたCFだったので、もしや「中島 みゆき」さんの新曲か?と思ってCDを探した記憶があります。
ハスキーで声量もある、実力もありそうなのに、新作が出てこないですね、ちょっと気になります。
曾根崎心中
心から愛し合った男女の、美しい最期までを、流れるような文体と美しい情景描写で語っていく。
ハードカバーでうすい本なので、読むのにそこまで時間がかからないが、ぐいぐい惹きつけられて、
読んだ後は放心し、涙が出た。
舞台は江戸時代の遊郭で、現代ではうかがい知れない非常に興味深い場所が細かに描かれており、
当時の遊郭独特の言葉もちらほら使われていて、それがよいエッセンスとなっている。
遊郭の描写もあるものの、女性目線から描かれているので、直接的すぎる描写は少なく、うつくしい。
本当の恋とは何なのか、本当に人を愛するとどうなるのか、そういことが、ぬきさしならない状況とともに
描かれていく。
普通の市井で出会っていた男女なら、現代に出会っていた男女なら、相思相愛の幸せな結婚をしたかもしれない。
でもこいういう悲劇の物語は、本当にうつくしいし、忘れられない。
乳と卵(らん) (文春文庫)
性にまつわる赤裸々な語り、最後の奇妙な盛り上がりは読んでいて飽きること無く、
それなりのカタルシスもあったが、これが後年、自分や世界へ、多くの影響を与えるとは思えなかった。
母・巻子の豊胸手術、娘・緑子の出生への悩み、そこにがんじがらめになる余り、二人は意思疎通を滞らせる。
迷走の果てに目が覚め、互いに今までの間違いを悔いるシーンで話は終わる。
しかし、私はその後の、親子を見たかった。
巻子は本当に貧乳へのコンプレックスを昇華できたのか、
ノートでしか親と向き合えない緑子はきちんと話せるようになったのか。
終始関西弁で捲し立てられる話は、読んでいて小気味良いリズムであったが、
同時に、人情話のベールを無理に被らせた居心地の悪さも感じた。
後ろの短編「あなたたちの恋愛は瀕死」の系統でしつこく筆を進める作品が、
作者には合っているのではないかと思う。この作品以外も読んでみたいと思う。
現代思想2011年9月臨時増刊号 総特集=緊急復刊 imago 東日本大震災と〈こころ〉のゆくえ
東日本大震災後、様々なムックや雑誌や本が出版されたが、そのどれも手に取ったことはなかった。しかし、この本はたくさんの精神科医の先生方が執筆者になっておられることから購入した。精神科医以外の方々の記事もたくさんあった。対談から文章まで、いろいろな形式の内容だった。
私が知りたかったのは「こころのケア」ということについての具体例。こころのケアチームや医療チームが各地から派遣されて現地に入った。その時期は様々だったという。震災直後、次第に時間が経って、数ヶ月後から多分現在まで。その時々で、必要とされることは変化していったことと思う。
具体的でとてもわかりやすかったのは、井原先生と斎藤先生の対談「「日常」の回復のために精神科医は何ができるか」、臨床心理士の大澤氏の「あらゆることが「こころのケア」になりうる」、森川すいめい先生の「被災地で「どうして生きなきゃならないのか」と問われた時」。
これらの記事の中で、やはり気になったのは、地域性もあるのか、「精神科医に相談をすること」に対する抵抗感だった。そうすることによる周囲の目が怖い、排除されてしまうのではという恐れ、それが理由で相談できない、そういったケースがかなりあったようだ。さらに、被災者の方々から話を引き出すことで、反対に安定していた人を不安定にしてしまう危険性。災害により躁のようになってしまい、周囲の話を聞かなくなり周囲と人間関係がうまくいかなくなってしまった避難所のリーダー。また、長年ひきこもっていた方が、この災害でひきこもりから脱した例。ただし、一時的なものであって、生活が落ち着いてくるとまたひきこもってしまったケースもあったという。「生きる理由」を失った方々のお話を聞く話。「こころのケア」は精神面のことだけではなく、あらゆることがこころのケアになりうるのだという話。
そして、支援についての難しさ。というのは、外からの支援は一時的であり、継続してそれを行っていくのは現地の人々だということ。また、外から来た支援者が、避難所に誰もいない(皆さんご自分の家の片付けなどに出かけ始めた時期)ことに腹を立て、現地の人に「誰もいないなんて!!」と愚痴った例など、現地のスタッフの方々が困ることもあったと言う。そういうことから、支援者に対する支援や研修もとても大切なのだということがわかった。