ヒートアイランド (文春文庫)
垣根作品の中ではこの作品が一番面白いと思います。アンダーグランドを舞台にしたハードボイルドっぽい小説ですが、小気味良いテンポと数々の魅力あるキャラクターたちがブラックマネー強奪をかけてぶつかり合うストーリーは目が離せません。プロットもよく練られており二転三転する後半の大乱戦に興奮必至。魅力あるキャラの中でもギャングマネー強奪団の柿沢、桃井のカッコ良さ渋さはもう最高。その後の彼らを描いた「ギャングスター・レッスン」「サウダージ」でも彼等の活躍を読むことが出来ます。この小説の主人公である「アキ」も続けて登場し、この本が気にいった方には合わせてお勧めです。
アキとカオルの名コンビがこの小説でしか読めないのは残念なところ。カオルのその後を描いた小説も作者にリクエストしたいところですね。
ワイルド・ソウル〈上〉 (幻冬舎文庫)
日本政府の駄政策により、だまされるようにアマゾン棄民となり、
絶望と苦悶の末に死に絶えた親兄弟、仲間達。
過去にやり直しは利かないが、あれほどの地獄を忘ることなどできるだろうか?
彼らの復讐心に息が詰まるかのような切迫感と何にも換えがたい目的意識が見える。
それは私達読者を圧倒する説得力と魅力だ。
ケイはこのテの作品に登場するキャラクターとしてはおそろしくキャラ立ちしており、
その一挙手一投足が楽しく読める。彼の陽性ぶり、その軽い言動、ブラジリアンとしての
すべては軽薄で浅慮にみえる。
そんなケイの中でどれほどの情念がたぎっているのだろう?
想像しながら読んでみてほしい。
勝ち逃げの女王: 君たちに明日はない4
業界のことをとてもよく研究して書いた本だと思う。
第1話は日本航空、2話は山一證券(当時はたしか
大和證券を併せ四大証券と言っていた)、3話はヤマハ、
4話はすかいらーくのことと読んでいてすぐわかる。
話の展開そのものはスムーズで読みやすいが、どの話も
エンディングがきれいに纏まりすぎている印象を持った。
個人的には、2話目の山一證券をリストラされたオヤジ、
4話目のファミレスの店長の話が心に残った。
ただ、ファストフードやファミレスの現場は過酷で今、
深刻な社会問題にもなっているので、もう少し突っ込んで
サービス残業や名ばかり管理職の話も織り交ぜて欲しかった
と思った。
ワイルド・ソウル〈下〉 (幻冬舎文庫)
本作品は、第6回大藪春彦賞を受賞。
2004年度版 このミスで10位。
2003文春ミステリーベスト10で13位。
正直、これほど面白いとは思わなかった。
冒険小説、コンゲーム好きの読者の方々には、是非お勧めしたい一冊である。
外務省が己の保身のために捏造した移民政策を信じ、中南米に移住し、妻や兄弟、両親を失い、己の人生をも狂わされた男達が、40年の時を経て、外務省に復讐するというストーリー。
とにかく、前半部分のブラジル移民達の悲惨な生活ぶりには圧倒される。多くの日本人達が知らないであろう、外務省による棄民政策。まずこの事実に基づいて作品を描いたアイディアの勝利である。現実に近年の外務省に関する報道を耳にするにあたり、この部分に妙にリアリティーを感じ、中盤以降の復讐劇に共感してしまう。また、中盤以降の復讐劇は一転してスピード感があり、発想自体も面白い。衛藤、山本、松尾、ケイ、貴子の主要登場人物のキャラが、しっかりと立っており、それぞれが自分の運命に決着を付けるラスト部分といい、非常によく書けていると思う。唯一、難を挙げるとすれば、2段階に分けて行われる復讐劇の後半部分の書き込みが、若干浅く感じた。
なお、本作品を書くための取材旅行を記した「ラティーノ・ラティーノ!」もお薦め
人生教習所 (2011-09-30T00:00:00.000)
帯には、人生の落ちこぼれが小笠原の謎めいた啓発セミナーに参加しなにかが変わっていく、というような内容紹介が書かれています。なんとなくダメ人間のための「癒し」系ファンタジーのような内容をメージしてましたが、読んだ印象はだいぶ違いました。
読者と登場人物がいっしょに小笠原のことを学んでいくための本のようです(『ソフィーの世界』の小笠原版か?)。なにか作者の小笠原への思い入れがあるんでしょうね。そのへんの小笠原の観光ガイド読むよりこの本を読んだ方が良さそうです。
ただ目的はそれに止まらず、現在の小笠原、それを形作った歴史的背景、地理的地学的条件などを学ぶことで、ひとつのコミュニティを立体的に捉える方法論と視座を手に入れ、最終的にはそれを自分自身の人生に応用していく、小説的にはそういう形になっているようです。
実際にはそんな堅苦しくないのかもしれないけど、そういう教育的小説だと思っておいた方が、単純なエンターテインメントを期待して読むより違和感がないと思います。エンターテインメントとしては読みにくい、、、。
ただもし本当に作者にそういう意図があったとしても、それが成功しているかどうかは、うーむ。新聞小説だったのかどうも全体に冗長な印象だし。リスペクトできるけどあまりおもしろくなかったかな。
ただ他のレビューによると、登場人物の何人かは作者の別の小説の登場人物でもあるようで、それを読んでいる人にはぐっとおもしろさが増すだろうなと思います。