本格小説 上
主だった登場人物の誰の視線で愛するということについて考えてみても、切なくてやりきれない気持ちになります。時代や年令や背景で愛することの表現の方法が変わっていっても、人はひとを想い続けるのですね。ただ、世間に対する責任や自身の立場と失いたくない愛とのバランスやら…深く考える1冊になりました。また、挿入されている景色や家具や風景の写真もココロに響きました。ひさびさ上下巻1日読破。そして再読。そういう本でした。
私小説―from left to right (ちくま文庫)
父親の海外赴任で日本を離れてニューヨークに引っ越し、主人公は中学生でいきなり現地の学校に入れられてアメリカ暮らし。
これが1964年の東京オリンピック前の時代、主人公は100%アメリカに囲まれながら、英語とアメリカに拒絶反応を起こし、
家にある日本文学全集を読むことで自分を保って生きた。
そういう思い出話が20年目の一日を軸に書かれる。
アメリカに住む日本人が必ず通る異文化突入のズレの意識、本物の西洋は日本で思う西洋と違うとか.....日本語で話しかけても英語で答える姉とか。
せつない気持ちが美しい文章で書かれる永遠の名作。西洋に出逢う日本人は必読の本。
主人公=著者はついに日本に帰り『續明暗』を書いた。
これはなんで漱石の未完の遺作『明暗』を書き継ぐようなことをしたか、そのワケを書いた本だと思ってもいいだろう。
母の遺産―新聞小説
今、まさにこの本と同じ状況で親を看ている私にとって、すべてに身につまされる思いで読んだ。
但し私の場合は父と母の有り様が逆であった。8年前に反面教師であった父をこの本と同じ思いで看取り、そして今は最愛の母の最期を看ている。
私はまさに「父の遺産」であったが、娘にとって母との確執の方が遥かに苦しいことだろうと思う。
それだけでも私の方がこの作者より遥かに幸せだと思った。
親子関係というのはドラマのように決して麗しいものではない。
情は別として、理屈抜きで相性が良く無かったり、愛せない相手だったり、尊敬できない相手だったり、親子故に切り捨てることができず、苦しい日々を送る子供が沢山いるだろう。
それに増して、老いという醜さも加味されて、なおさら修羅の日々を送っている方々もそれこそ五万といるだろう。
有る意味、人間修行の一番の相手かもしれない。
そんな母と子の、赤裸裸な本音が随所に書かれてあり、「そう、私も本当にそう思った」「同じ言葉でそう思った」と共感する所ばかりだった。
そして今の老人終末医療のあり方、命ばかりを永らえさせ、質の悪い命を伸ばすだけの今の高度な医療のあり方も身につまされて感じている。
それでも、「親を送る」という子としての役目を終え、一つの時代が去って行く様も感じる。
その後に同じ様に「老い」が見えて来る中、親から残された心の遺産をどう抱いて生きていくかで、その人の是からの日々も決まってくるだろう・・・
この本の主人公は、何もかも終わった後に全てを許すことができた。それはすなわち、彼女が苦しみながらもベストを尽くしたからであろう・・・出来る限り親に尽くしたと思えるからだろう・・
だからこそ、新しい気持ちで是からを生きていく事ができるんだと思う。
今、まさに親を介護して修羅場を生きている子供達に読んでほしいと思う。
苦しいのは貴女だけじゃないのよ・・・私もそうなのよと思える本だ。
永遠に続く日々ではない、必ず重荷を降ろせる日が来る。だからもう少し、頑張ろうと思った。
最近読んだ本の中ではダントツに心に深く響く本で有った。良作だと思う。